病院、社会福祉施設での「宿直」とは?その宿直の許可を受けるためには?

労働基準法でいう「宿直勤務」とは、単に夜間に勤務する区分ではなく、通常の勤務とは全く違った内容の勤務形態のことを指します。
例えば、病院における「看護師の通常の勤務形態」とは、患者の受付、診療の補助、夜勤であっても夜間における入院患者対応のことを指します。また介護事業所における「介護士の通常の勤務形態」とは、利用者の入浴介助や排せつ・食事介助業務、夜勤業務として夜間の利用者の移動介助、排泄援助等を指します。

これに対して「宿直業務」とは、所定の勤務時間外における施設内の巡回、緊急の文書や電話の収受、非常事態に備えた待機といったもので、通常の業務はほとんど行われません。こういった勤務は通常の業務に比べて著しく労働密度が低いもので、これを「労働時間」として取り扱うと賃金の発生が必要になるため、施設運営に大きな負担がかかります。
そのため、労働基準監督署の許可を受けることで、所定労働時間に、あるいは休日に勤務させても、いわゆる時間外労働、休日労働とはなりません。
労働基準監督署の許可を受けるためには、以下の「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」(様式第10号)を提出します。

断続的な宿直又は日直勤務許可申請書.様式第10号

なお、この労働基準監督署の許可の基準は「一般的な基準(ビルの警備員等の宿直)」、「福祉施設での宿直許可基準」、「医師、看護師の宿直許可基準」とそれぞれ基準が区分されています。

一般的な宿直許可基準について

  • 勤務の態様

常態として、ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり、定時的巡視、緊急の文書又は電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限って許可するものであること。
② 原則として、通常の労働の継続は許可しないこと。したがって始業又は終業時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話の収受又は盗難・火災防止を行うものについては、許可しないものであること。

  • 宿日直手当宿直勤務1回についての宿直手当又は日直勤務1回についての日直手当の最低額は、当該事業場において宿直又は日直の勤務に就くことの予定されている同種の労働者に対して支払われている賃金の一人1日平均額の1/3以上であること。
  • 宿日直の回数許可の対象となる宿直又は日直の勤務回数については、宿直勤務については週1回、日直勤務については月1回を限度とすること。ただし、当該事業場に勤務する18歳以上の者で法律上宿直又は日直を行いうるすべてのものに宿直又は日直をさせてもなお不足であり、かつ勤務の労働密度が薄い場合には、宿直又は日直業務の実態に応じて週1回を超える宿直、月1回を超える日直についても許可して差し支えないこと。
  • その他宿直勤務については、相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること

社会福祉施設における宿直許可の基準

  • 通常の勤務時間の拘束から完全に開放された後のものであること
  • 夜間に従事する業務は、原則として通常勤務における労働は行わず、定期的な巡視、緊急の文書または電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするほか、少数の入所者に対して行う夜尿症起こし、おむつ取替え、検温等の介助作業であって、軽度かつ短時間の作業に限ること
  • 夜間に十分に睡眠がとりうること:宿直中に労働者が適切に休息を取れるよう、十分な睡眠設備(寝具や暖房器具等)が提供されていることが必要です。
  • 宿直手当が支払われていること:宿直勤務には適切な手当が支払われ、その額は当該事業所において宿直勤務に就く労働者一人一日当たりの平均の賃金額の3分の1以上である必要があります。
  • 原則、宿直が1週間に1回以内であること:宿直勤務の回数は、通常1週間に1回を超えないことが原則とされています。ただし、労働密度が低く、労働者保護に問題がないと認められる場合には例外が認められることもあります。

これらの条件を満たし、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合に限り、宿直勤務は労働基準法の労働時間規制の適用を免除されます。しかし、宿直中に通常の勤務と同じ内容の業務に従事した場合、その時間は時間外労働として扱われ、割増賃金の支払いが必要です。
(昭和63年3月14日付基発第150号)

医師、看護師等の宿日直許可の基準

医師等の宿日直勤務については、前記の一般的な許可基準に関して、より具体的な判断基準が示されています。

  • 通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。(通常の勤務時間が終了していたとしても、通常の勤務態様が継続している間は宿日直の許可の対象にならない。)
  • 宿日直中に従事する業務は、前述の一般の宿直業務以外には、特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること。例えば以下の業務等をいう。

①医師が、少数の要注意患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等(軽度の処置を含む。以下同じ。)や、看護師等に対する指示、確認を行うこと
②医師が、外来患者の来院が通常予定されない休日・夜間(例えば非輪番日など)において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診等による診察等や、看護師等に対する指示、確認を行うこと
③看護職員が、外来患者の来院が通常予定されない休日・夜間(例えば非輪番日など)において、少数の軽症の外来患者や、かかりつけ患者の状態の変動に対応するため、問診等を行うことや、医師に対する報告を行うこと・看護職員が、病室の定時巡回、患者の状態の変動の医師への報告、少数の要注意患者の定時検脈、検温を行うこと

  • 宿直の場合は、夜間に十分睡眠がとり得ること。
  • 上記以外に、一般の宿日直許可の際の条件を満たしていること。

【参考資料】断続的な宿日直の許可基準について

 

申請から宿日直許可まで

宿直の許可を労働基準監督署に申請する際は、上記の「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」(様式第10号)に加え、以下の書類の添付も求められます。

  1. 宿直勤務に関する一定の月のシフト表
  2. 業務マニュアル(何時から何時まで通常業務を行い、何時から何時までが軽易な宿直的業務を行い、何時から何時までが仮眠時間か分かるようなもの)
  3. 宿直勤務実態報告書
  4. 宿直を行う職員の人数分の賃金台帳
  5. 宿直又は日直勤務手当最低額算定書など

上記の「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」及び各種添付書類提出後(eGovによる電子申請も可)、労働基準監督署の監督官における実地調査があります。
実地調査では宿直業務が労働基準法に適合しているかが確認されます。調査はおよそ1時間程度で、実際に宿直を行っている宿直員のヒヤリング、巡回している場所の確認、宿直室の確認等が行われます。

以上を通して、労働基準監督署長の許可を得ることができれば、およそ1か月程度で「宿直許可」が下りることになります。

宿直に関する詳細な基準や申請手続きについては、東京労働局資料の「労働基準法の宿日直許可のポイント」をご参照ください。

 

当事務所では、宿直勤務に関する相談や許可申請のサポートを行っています。宿直勤務の適切な運用や労務管理に関するご相談がありましたら、ぜひ当事務所にご連絡ください。
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