「懲戒解雇」・「諭旨解雇」とは?懲戒処分(懲戒解雇・諭旨解雇)を行う際の留意点は?
懲戒解雇とは
懲戒解雇は、従業員の重大な非行や規律違反に対して、会社が行う最も厳しい懲戒処分です。
主な特徴
- 即時解雇が可能
- 退職金の不支給や減額が一般的
- 再就職に大きな影響を与える可能性がある
懲戒解雇の事由例
- 重大な法令違反
- 会社の機密情報の漏洩
- 横領や背任行為
- セクハラやパワハラなどの重大なハラスメント行為
- 無断欠勤の繰り返し
懲戒解雇は、従業員の行為が会社の秩序を著しく乱し、雇用関係を継続することが困難な場合に行われる最終手段です。
諭旨解雇とは
諭旨解雇は、懲戒解雇に準ずる重大な非行があった場合に、会社が従業員に退職を勧告する形で行う解雇処分です。
主な特徴
- 従業員に退職届の提出を求める
- 退職金が支給される場合がある
- 懲戒解雇よりも従業員への配慮がある
諭旨解雇の事由例
- 業務上の重大なミス
- 会社の信用を著しく損なう行為
- 職場の秩序を乱す行為
- 業務命令への重大な違反
- 会社の利益に反する行為
諭旨解雇は、懲戒解雇に値する行為があったものの、情状酌量の余地がある場合に選択されることがあります。
懲戒解雇と諭旨解雇の違い
項目 | 懲戒解雇 | 諭旨解雇 |
---|---|---|
解雇の方法 | 会社からの一方的な通告 | 退職勧告後、従業員との協議で決定される場合もある |
退職金 | 不支給または大幅減額 | 支給される場合あり |
解雇予告 | 不要とされる場合もあり | 必要(30日前または30日分の賃金) |
再就職への影響 | 非常に大きい | 大きい |
懲戒解雇・諭旨解雇の手続き
1. 事実関係の調査
- 客観的な証拠の収集
- 関係者へのヒアリング
- 当事者からの事情聴取
2. 懲戒委員会の開催
- 就業規則に基づく委員会の設置
- 事実関係の確認と処分の検討
3. 弁明の機会の付与
- 従業員に対する弁明の機会の設定
- 書面または口頭での弁明の受付
4. 処分の決定
- 処分内容の最終決定
5. 処分の通知
- 処分内容の通知
6. 退職手続き(諭旨解雇の場合)
- 退職届の受理
- 退職金の精算(支給する場合)
適切な手続きを踏むことが大変重要です。適切な手続きを踏むことで、後の紛争リスクを軽減することができます。
懲戒解雇・諭旨解雇の有効性
懲戒解雇・諭旨解雇が有効と認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 就業規則への明記
- 懲戒解雇・諭旨解雇の事由が明確に規定されていること
- 処分の相当性
- 非行の内容と処分の重さが釣り合っていること
- 平等取扱いの原則
- 同様の事案に対して公平な処分が行われていること
- 適正な手続き
- 事実確認、弁明機会の付与など、適切な手続きを経ていること
- 社会通念上の相当性
- 一般社会の常識に照らして妥当な処分であること
これらの要件を満たさない場合、懲戒権の濫用として解雇無効となる場合があります。
懲戒解雇・諭旨解雇に関する判例
1. 懲戒解雇が有効とされた事例
徳島本社事件 (平成28年判決)
- 事案: 徳島に本社を置く企業が従業員に配置転換命令を出し、それに従わなかった従業員を懲戒解雇した事例。
- 判断: 配置転換命令が合理的であるにも関わらず、それを拒否したことは労働契約上の重大な義務違反とされ、懲戒解雇が有効と認められました。このケースでは、懲戒事由に該当する秘密漏洩行為や業務違反行為も重視されました
不正旅行券事件 (平成27年判決)
- 事案: 従業員が約7か月間にわたり旅行券を改ざんし、102万円を不正に取得した事例。
- 判断: 裁判所は、この行為が重大な企業秩序違反であると認定し、懲戒解雇が有効とされた。また、退職金約510万円の不支給も正当とされた
2. 諭旨解雇が無効とされた事例
日本鋼管事件 (昭和49年最高裁判決)
- 事案: ある従業員が私生活上の犯罪行為(刑事特別法違反)で逮捕され、その不名誉な行為が会社の体面を著しく損なったとして懲戒解雇された事例。
- 判断: 最高裁は、従業員の行為が会社の社会的評価に悪影響を与えたものの、懲戒解雇や諭旨解雇の事由には不十分とし、従業員の地位を確認しました。この判決は、私生活上の行為が職務と関係なくても、会社の体面を損なう場合に懲戒処分が可能であることを示していますが、会社の規模や状況も考慮する必要があることを指摘しました
守秘義務違反事件 (平成30年判決)
- 事案: 従業員が会社の情報を社外に漏洩し、諭旨退職が命じられた事例。
- 判断: 東京高裁は、情報漏洩があったものの、社会的評価への影響が軽微であるとして諭旨退職は重すぎると判断し、無効とした
まとめ
懲戒解雇・諭旨解雇は、従業員の重大な非行に対する最も厳しい処分です。これらの処分を行う際は、以下の点に注意が必要です:
- 就業規則の整備
- 懲戒事由や処分の種類を明確に規定
- 適正な手続きの遵守
- 事実確認、弁明機会の付与、懲戒委員会の開催など
- 処分の相当性の確保
- 非行の程度と処分の重さのバランス
- 公平性の担保
- 同様の事案に対する一貫した対応
- 記録の保管
- 調査結果や懲戒委員会の議事録など、証拠の保管
- 専門家への相談
- 弁護士や社会保険労務士などへの事前相談
以上からお判りのように、懲戒解雇・諭旨解雇は従業員の人生に大きな影響を与える処分です。慎重な判断と適切な手続きが求められるということを、十分にご認識ください。