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採用内定

採用内定とは

「採用内定」とは、主に新卒者や正社員の採用に際して、正式な労働契約を締結する前に企業が行う採用決定を指します。法的な定義は存在しませんが、採用活動の一環として広く行われており、企業と内定者の間で「始期付解約権留保付労働契約」として扱われることが多いです。この段階では、労働契約が成立していると認識され、企業側に内定者を雇う義務が生じます。

採用内定の法的位置づけ

採用内定の法的位置づけとして、日本の裁判所は採用内定の時点で、労働契約が成立すると判断しています。この契約は「始期付解約権留保付労働契約」と呼ばれ、内定者の入社日まで有効です。このため、内定取消しは「解雇」として扱われ、解雇に関する法律が適用されます。

採用内定の成立プロセス

採用内定が成立するプロセスには、以下の2つのステップがあります。

1.内定通知の発行: 企業は内定者に対して、採用を通知します。この通知は書面やメールで行われることが一般的です。
2.内定の承諾: 内定者がその内定を承諾すると、内定が成立します。これにより労働契約が確立され、企業と内定者双方に権利と義務が生じます。

採用内定と労働契約

労働契約の成立

採用内定が成立すると、労働契約も成立したとみなされます。この労働契約には、以下のポイントが含まれます。

労働条件の明示: 採用内定時には、労働条件の詳細を内定者に明示する必要があります。これは、労働基準法で定められた企業の義務です。
内定取消しの制限: 採用内定が成立した後は、内定取消しが容易にはできません。内定取消しは「解雇」と同等の扱いを受け、合理的な理由がなければ無効となる可能性があります。

内定と内々定の違い

採用活動において「内定」と「内々定」は異なる概念として扱われます。

内々定: 内々定は、正式な内定の前段階であり、法律上の労働契約が成立しているとはみなされません。したがって、企業は内々定の段階では、まだ労働契約の義務を負いません。
内定: 一方で、正式な内定は労働契約の一部として認識され、内定者に対して明確な雇用の意思表示が行われます。これにより、内定者は法的に保護され、無断で内定を取り消すことはできなくなります。

採用内定取消しの法的問題

採用内定取消しの扱い

採用内定の取消しは、労働契約の解約に相当し、解雇に準じた取り扱いを受けます。労働契約法第16条では、解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合は無効とされています。この法理は採用内定取消しにも適用され、企業が内定を取り消す際には慎重な判断が求められます。

採用内定取消しが認められる場合

採用内定の取消しが認められる具体的な場合としては、以下のような事例が挙げられます。

  • 学業成績の不良: 内定者が予定通り卒業できない場合。
  • 健康状態の悪化: 内定者が入社後、業務を遂行できる健康状態でないと判明した場合。
  • 履歴書の虚偽記載: 内定者が履歴書や面接で虚偽の申告を行っていた場合。
  • 犯罪行為や反社会的行為: 内定者が重大な不正行為や犯罪に関与していた場合。
  • 企業の経営悪化: 企業の経営が急激に悪化し、採用計画が変更された場合。

ただし、これらの理由があっても、取消しの有効性は裁判所の判断に委ねられるため、慎重な対応が必要です。

採用内定取消しの防止策

採用内定取消しを防止するため、企業は事前に内定者の適正や健康状態をしっかりと確認し、労働条件を明確に提示することが重要です。また、経営状況の悪化が予想される場合は、早期に対応策を講じることが求められます。

採用内定に関する裁判例

大日本印刷事件(昭和54年7月20日 最高裁判所判決)

大日本印刷事件では、採用内定の法的性質について重要な判断が下されました。最高裁判所は、採用内定が「始期付解約権留保付労働契約」として成立することを認め、内定取消しには厳格な基準が適用されるとしました。この判例は、現在の採用内定に関する法的解釈の基礎となっています。

コーセーアールイー事件(平成23年3月10日 福岡高等裁判所判決)

コーセーアールイー事件では、内々定の段階での取消しについて裁判が行われました。この事件では、「始期付解約権留保付労働契約」は成立していないとされたものの、企業の一方的な取消しが労働者の期待権を侵害し、損害賠償が認められました。この判例は、内々定であっても企業の不適切な対応が法的責任を問われる可能性があることを示しています。

まとめ

採用内定は、単なる企業と求職者との口約束ではなく、法的に保護される重要な労働契約の一部として位置づけられています。特に「始期付解約権留保付労働契約」という考え方により、企業側は採用内定の取消しに慎重であるべきです。内定が出た段階で、労働契約が成立しているとみなされるため、内定者はその時点で法的な保護を受ける権利を持つことになります。

企業にとっては、採用内定時に労働条件を明示し、内定者との信頼関係を築くことが不可欠です。また、内定取消しは経営の問題や内定者の不誠実な行動などが理由で行われることが考えられますが、合理的な理由がない限り、その取消しは無効となる可能性が高いです。特に新卒者の場合、採用内定取消しがもたらす影響は大きく、企業の評判や今後の採用活動にも大きなリスクを伴うため、十分な注意が必要です。

さらに、採用内定制度は企業のブランド価値や社会的信頼に関わるものであり、正確かつ誠実な対応が求められます。特に昨今のグローバルな労働市場では、日本の独自の雇用慣行である「採用内定」に対する理解を深めることが重要です。企業がこの制度を適切に運用し、内定者を尊重することで、優秀な人材を引き寄せることができるでしょう。

また、企業は新卒採用において、内定者が不安を感じないように定期的にコミュニケーションを取り、労働条件や業務内容に関する詳細な説明を行うことが推奨されます。このような透明性のある対応は、内定者のモチベーションを高めるだけでなく、入社後の早期離職を防ぐ効果も期待されます。

一方、求職者も自分の権利と義務をしっかりと理解し、内定を受けた後も誠実な態度で企業との関係を築くことが大切です。内定辞退や複数内定の処理においても、相手に対して迅速かつ礼儀正しい対応を心がけることで、今後のキャリアにおいても良好なスタートを切ることができます。

定年制との関係性

採用内定に関連する事項として、企業が雇用契約に定年制を設けることが一般的ですが、採用内定者もその規定に従う義務があります。定年制は、労働契約法や労働基準法によって法的に保護されていますが、採用内定時点で明示される労働条件の一環として、内定者にも影響を与える可能性があります。

定年制に関する規定が内定者にとってどのように適用されるかは、企業側の説明責任が伴うため、内定時に明確に示すことが必要です。企業が内定者に対して定年制やその後の雇用継続の有無などをしっかりと説明し、内定者が納得したうえで入社することが、トラブルを未然に防ぐ鍵となります。

採用内定制度と企業の将来展望

企業の成長と優秀な人材の確保は、採用プロセスの透明性と公正性に大きく依存しています。採用内定制度を適切に運用することで、企業は自社のブランド力を高め、長期的な人材戦略の一環として優秀な人材を獲得することができます。

今後も社会情勢や法改正の動向に注目し、採用活動や内定制度の改善を図ることが、企業にとっての競争力向上につながるでしょう。特に中小企業においては、採用内定制度の整備とその適正な運用は、企業の信頼性や長期的な成長戦略において非常に重要な要素だと思います。

 

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