「休業手当」とはどのようなものか?「休業手当」の発生要件とは?

休業手当とは

休業手当とは、使用者の都合により従業員が仕事を行えなかった場合に支払われる手当のことを指します。労働基準法第26条に基づき、使用者の責に帰すべき事由によって労働者が休業を余儀なくされた場合、その休業期間中においては平均賃金の60%以上の手当を支払う義務があります。これは、労働者の生活の安定を図るための措置です。

労働基準法(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

支払い義務の発生要件

休業手当の支払い義務が発生するためには、休業が使用者の責任によって生じた場合に限られます。例えば、会社の経営上の理由や設備トラブル、業務の縮小などが原因で従業員が働けない場合に適用されます。逆に、台風などの天災や第三者の責任による不可抗力の場合には、休業手当の支払い義務は発生しません

金額の計算方法

休業手当の金額は、労働基準法第26条に基づいて計算されます。具体的には、労働者の「平均賃金」の60%以上の金額を支払うことが義務付けられています。
【参考】厚生労働省パンフレット「労働基準法第26条で定められた休業手当の計算について」
この「平均賃金」とは、基本的に以下の手順で算出されます。

計算対象期間

 まず、休業が発生した日の前3ヶ月間(暦日)の総賃金額を基に計算します。この総賃金には、基本給、残業手当、各種手当(住宅手当や家族手当など)が含まれますが、臨時に支払われた賃金(賞与など)は含まれません。

賃金の総額

 上記3ヶ月間に支払われた賃金の総額を算出します。これが、平均賃金を計算する基礎となります。

総暦日数の算出

 次に、対象となる3ヶ月間の総暦日数を求めます。この「暦日数」は、労働日だけでなく、休日や休暇を含む全ての日数です。

平均賃金の計算

 賃金総額を、3ヶ月間の総暦日数で割ります。これによって算出された金額が「平均賃金」となります。

休業手当の支払額

上記の手順で計算された「平均賃金」に、60%以上の割合を掛けたものが休業手当として支払われます。具体的な例を挙げると、以下のようになります。

 過去3ヶ月の総賃金が90万円で、総暦日数が90日であった場合、
 平均賃金は、90万円 ÷ 90日 = 1万円(1日あたりの平均賃金)
 したがって、休業手当は1万円の60%以上であるため、1日あたり6,000円以上が支払われることになります。

休業手当の支払方法 等

特殊なケース|欠勤日がある場合

対象期間に欠勤日がある場合、その分は総暦日数から控除されるため、結果として1日あたりの平均賃金が高くなります。

特殊なケース|変則的な給与体系の場合

 労働者が出来高払い制や歩合給制で働いている場合には、直近3ヶ月の賃金総額をもとに、同様の計算方法で平均賃金が算出されますが、安定的な賃金収入を保障するため、最低限の基準が設けられています。

特殊なケース|裁量労働制やフレックス制の適用

裁量労働制やフレックスタイム制が適用されている場合でも、平均賃金の計算方法に大きな違いはありません。要は、過去3ヶ月間の総賃金を総暦日数で割り、そこに60%以上の割合を掛けた額が休業手当として支払われるという点は同じです。

 

休業手当の例外規定

労働基準法第26条においても、使用者の責任が免除される例外的なケースが存在します。例えば、天災や不可抗力による休業の場合、使用者に責任がないため、休業手当の支払い義務は発生しません。ただし、不可抗力の要件を満たすためには、企業が事前に合理的な予防策を講じていたことも条件となります。このため、企業は労働者の安全確保や設備の保全に十分な対応を行うことが求められます。

休業手当の「100分の60」の支払いの趣旨と保証額について

「100分の60」の趣旨

労働基準法第26条では、休業手当の支払い額を「平均賃金の100分の60以上」と定めています。この60%以上の支払い規定の趣旨は、労働者の生活を最低限度で保障するためです。つまり、休業が生じた場合でも、生活費が途絶えないようにするための最低限度の保証として、この割合が設定されています。

60%という割合は、労働者の生活費を大幅に圧迫しない一方で、使用者に対しても過度な負担を強いることのない妥当なラインとして定められています。使用者が経営上の理由などで労働者を休業させる場合、その責任を負うという立場から、少なくとも60%以上の給与保障が必要だとされています。

保証額としての「100分の60」

「100分の60」というのは、あくまで最低保証額であり、労働者が休業中に生活を維持できるようにするための基準です。使用者は、法的にはこの最低ラインを下回らないように休業手当を支払う義務がありますが、企業の裁量でそれ以上の支払いを行うことも可能です。

それ以上の支払いについて

企業が経済的に余裕がある場合や、従業員との関係を良好に保つために、企業の判断で「100分の60」を超える休業手当を支払うことも考えられます。このような場合、60%以上の割合を設定して支給することが認められます。例えば、「平均賃金の80%を支給する」など、より高い水準での支払いを行うことは、法的には何ら問題がありません。

しかし、その場合も注意すべき点は、就業規則や労働契約において、どのような取り決めをするかです。あらかじめ就業規則において、「休業手当は平均賃金の60%を支払うが、必要に応じて80%まで支払うことがある」といった明確なルールを設けておくことが望ましいです。これにより、企業の方針に基づき、透明性のある休業手当の運用が可能となります。

企業の裁量による労働者への配慮

一部の企業では、労働者への配慮として「100分の60」ではなく、満額の賃金を支払うケースもあります。特に、休業が一時的であると見込まれる場合や、従業員の定着が重要な業界においては、経営判断として、全額支払いやより高い水準の休業手当を支給することも選択肢となるでしょう。

ただし、使用者の財務状況や経営判断に依存するため、休業手当の上乗せ支給は各企業の経済状況や人材戦略に応じて異なる対応が取られることが多いです。

その他

罰則規定

休業手当の支払いを怠った場合、労働基準法に基づき、使用者には罰則が科せられることがあります。具体的には、30万円以下の罰金が適用されるため、企業は法令を遵守し、適切な対応を取る必要があります。休業手当の未払いは、労働者とのトラブルにつながる可能性があり、経営上のリスクとしても無視できません。

休業手当と他の賃金の違い

休業手当は、通常の賃金とは異なり、労働者が実際に労働を行わなかった期間に対して支払われるものです。このため、実際に働いた時間に応じて支払われる賃金や残業手当とは区別されます。使用者が適切に休業手当を支払うことで、労働者は休業中でも一定の生活を維持でき、精神的な負担を軽減することができます。また、休業手当が適用される期間についても、労働契約や就業規則に基づいて事前に取り決めておくことが推奨されます。

休業手当の申請方法

休業手当の支払いを受けるには、労働者がその状況を適切に申請することが必要です。一般的には、企業が休業を命じた場合、労働者が手続きを行うことなく自動的に支払われますが、何らかの理由で支払いが遅れたり、発生しない場合には、労働者がその旨を申し出ることが求められます。労働者は、自身の権利として休業手当を受け取る資格があることを理解し、必要に応じて企業と適切に交渉する姿勢を持つことが重要です。

休業手当の事例事例1

例えば、介護施設で施設の老朽化に伴い改修工事を行うため、一時的に施設を閉鎖し、従業員が出勤できない状況が発生した場合、この休業が使用者の責に帰すべき事由と認定されれば、従業員に対して休業手当を支払う必要があります。一方で、施設が台風や地震などの自然災害によって損壊し、業務を継続できなくなった場合、これは不可抗力と見なされる可能性が高く、使用者には休業手当の支払い義務が発生しないケースもあります

中小企業や福祉事業所における対応の重要性

中小企業や福祉事業所では、経営資源が限られているため、休業手当の支払いが事業運営に与える影響が大きくなることがあります。このため、予防的なリスク管理や就業規則の整備が欠かせません。

まとめ

休業手当は、労働者の生活を守るための重要な制度であり、特に中小企業や福祉事業所においては、その運用が適切であることが求められます。労働基準法第26条の内容をしっかり理解し、トラブルを未然に防ぐための取り組みが重要です。当事務所では、休業手当を含む労務管理のサポートを通じて、貴社の事業運営を支援いたします。

 

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