「1か月単位の変形労働時間制」とは?「1か月単位の変形労働時間制」導入の要件、導入のための注意点は?

1か月単位の変形労働時間制とは、特定の期間内で労働時間を調整することにより、1日8時間、1週40時間という労働基準法の制約を柔軟に運用できる制度です。これにより、業務の繁閑に応じて労働時間を調整し、労働者にとっても企業にとっても効率的な労働環境を実現することが可能となります。

通常、労働基準法では1日の労働時間は8時間、1週間の労働時間は40時間を超えてはならないと規定されています。しかし、特別養護老人ホームなどの施設では、シフト勤務や夜勤が必要であるため、1日の労働時間が8時間を超えることや1週間の労働時間が40時間を超えることがあります。

このような場合、1か月単位の変形労働時間制を導入することで、1か月間の総労働時間を平均して1週間40時間を超えなければ、特定の日や週に8時間以上、40時間以上の労働をさせることが可能です。

1か月単位の変形労働時間制の要件

  • 変形労働時間を採用する旨の定め:労働時間の変形制を導入することを明確に記載します。
  • 変形期間の起算日:変形期間を毎月1日から月末までなどと明確に定めます。
  • 変形期間を1か月以内とする定め:変形期間は1か月以内で設定します。
  • 労働日、労働時間の特定:各日の始業・終業時刻を具体的に定め、労働者に周知します。
  • 変形期間の所定労働時間:変形期間内の労働時間を平均して1週間の労働時間が法定労働時間を超えないこととします。

制度導入の手順

1か月単位の変形労働時間制を導入するための具体的な手順は以下の通りです:

  1. 就業規則への記載:労使協定を締結した後、就業規則に変形労働時間制に関する事項を記載し、労働者に周知します。常時10人未満の事業所でも、変形労働時間制を導入する場合は労働者に周知する必要があります。
  2. 労働基準監督署への届出:労使協定を締結した場合、労働基準監督署に届出を行います。この届出により、労働基準法に基づく変形労働時間制の適用が正式に認められます。

詳細については、次のリンクから「導入の手引き」をご覧ください: 「1か月単位の変形労働時間制」導入の手引き

制度導入のメリット

1か月単位の変形労働時間制を導入することで、以下のようなメリットがあります:

  • 業務の効率化:繁忙期と閑散期の労働時間を調整することで、業務の効率化が図れます。例えば、繁忙期には労働時間を増やし、閑散期には減らすことで、労働者の負担を平準化できます。
  • 労働者のワーク・ライフ・バランスの向上:労働時間の調整により、労働者のプライベート時間を確保しやすくなり、ワーク・ライフ・バランスが向上します。これにより、労働者の満足度やモチベーションが高まります。
  • コスト削減:労働時間の調整により、残業代の支払いを減らすことができ、コスト削減につながります。

制度導入の際の注意点

1か月単位の変形労働時間制を導入する際には、以下の点に注意が必要です:

  • 事前の計画と周知:変形労働時間制を導入する前に、労働者に対して制度の趣旨や運用方法を十分に説明し、理解を得ることが重要です。計画的なスケジュールを策定し、労働者に周知することで、円滑な導入が可能になります。
  • 労働時間の適切な管理:労働時間の管理を適切に行うことが求められます。特に、変形期間内における各日の労働時間を正確に記録し、法定労働時間を超えないように注意する必要があります。労働時間の記録が不十分であった場合、法定労働時間を超過していることに気づかず、法令違反となるリスクがあります。
  • 突発的な業務への対応:突発的な業務が発生した場合には、時間外労働として適切な手続きを行うことが必要です。労使協定に基づき、時間外労働の申請手続きや割増賃金の支払いを確実に行います。これを怠ると、労働者の不満が高まり、労使トラブルの原因となる可能性があります。
  • 労働者の健康管理:長時間労働が続くと、労働者の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。変形労働時間制を導入する際には、労働者の健康状態を定期的に確認し、過労を防止するための対策を講じることが重要です。健康管理を怠ると、労働災害の発生や労働者の離職につながるリスクがあります。
  • 判例に基づくリスク:変形労働時間制が適用されない場合もあるため、注意が必要です。例えば、名古屋地裁令和4年10月26日の判例では、就業規則に明確な記載がなく、シフト表と齟齬があったため、変形労働時間制の適用が否定されました。また、計算が複雑になることから、労働時間の適切な管理が困難になる場合もあります。

制度導入の際の注意点(補足)

1か月単位の変形労働時間制を運用する際には、以下の点にも注意が必要です:

  • 予定している「始業時刻、終業時刻」を全て就業規則等に記載すること: 変形労働時間制を適用するためには、「すべての」シフトの始業時刻や終業時刻を具体的に就業規則や労使協定に記載し、労働者に周知する必要があります。この記載が不十分であった場合、変形労働時間制の適用が認められない可能性があります。
  • 当初明示したシフトを後から変更することは「原則」認められていないこと: 一度労使協定や就業規則に定めたシフトを後から変更することは、原則として認められていません。新たなシフト時間帯が発生する等、変更が必要な場合は、再度就業規則等を締結し、労働者に十分に説明する必要があります。この手続きがないまま勝手にシフトを変更すると、法令違反となるリスクがあります。

これらの運用に関する規定を遵守しないと、変形労働時間制の適用が否定される可能性があるため、制度の適正な運用が求められます。

制度導入に関する手引き

厚生労働省では、「1か月単位の変形労働時間制」導入に関する具体的な手引きを提供しています。この手引きには、制度導入のための具体的な手順や必要な書類の作成方法、労使協定の締結手順などが詳細に記載されています。これにより、事業所が適切に制度を導入し運用できるようサポートしています。

詳細については、次のリンクから「導入の手引き」をご覧ください: 「1か月単位の変形労働時間制」導入の手引き

当事務所では、1か月単位の変形労働時間制の導入に関する相談やサポートを行っています。制度の適切な導入や労務管理に関するご相談がありましたら、ぜひ当事務所にご連絡ください。皆様の労務管理を全力でサポートいたします。

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