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「パートタイム・有期雇用労働法に基づく報告の徴収」について

最近、各都道府県労働局から「パートタイム・有期雇用労働法に基づく報告の徴収について」といった通知が届いている、と様々な事業所様から相談されるケースが増えているように感じます。この「報告徴収」の通知は「パートタイム・有期雇用労働法第18条」に基づいたもので、具体的には以下の内容が同法に規定されています。

法第18条(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等)
1 厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるときは、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主に対して、報告を求め、または助言、指導若しくは勧告をすることができる。
2 厚生労働大臣は、規定に違反している事業主に対し、勧告をした場合において、その勧告を受けた者が従わなかったときは、その旨を公表することができる。
3 厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。

ヒアリング票の提出について

事業所に通知が届くと、事前に提出依頼される「ヒアリング票の記載」に苦慮されることが多いようです。(このヒアリング票は、管轄の労働局によって「事前に提出」依頼されるケースと、「ヒアリング当日に持参」依頼されるケースもあるようです。)
このヒアリング票には、事業所の運営状況や労働者の雇用状況について詳細な情報が求められます。具体的には、以下の項目について記載が必要です。

1.事業場の概要

名称、住所、事業内容など、事業所の基本情報を詳細に記載する必要があります。この情報は、労働局が事業所の全体像を把握するための重要な基礎データとなります。

2.パート労働者の職種、人数

現在雇用しているパート労働者の職種や人数を具体的に記載します。

3.パート労働者・有期雇用労働者と正社員の職務内容について|(1)1週間の所定労働時間、業務の内容について|(2)業務に伴う責任の程度の差について

ここでいう「職務の内容」とは「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」です。(同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)より)
各労働者の職務内容について、具体的かつ詳細に記載することが求められます。正社員とパートタイム・有期雇用労働者の職務内容に違いがある場合、その違いを客観的かつ正確に示すことが重要です。

(1)1週間の所定労働時間、業務の内容について
特にこの項目は、時間をかけて内容を確認する必要があり、最も正確な記載が重視される部分だと考えられます。
正社員とパート社員、一見同様の業務を行っているように見える場合でも、「業務の内容は同じ」と簡単に記載するのではなく、よく吟味する必要があります。

例えば、〇〇会議への出席や後輩へのOJT、クレーム対応、突発的な事故への対応など、詳細に検討すれば、正社員とパート社員との間で業務内容に違いがあることが明らかになるでしょう。この違いを明確に記載することが、非常に重要なポイントとなります。

(2)業務に伴う責任の程度の差について
この項目も(1)同様、十分に考慮した上で正確かつ客観的な記載を行うことが求められます。
記載例にある「売り上げのノルマの有無」や「残業・深夜勤務の有無」、「金額の決裁権の有無」などは比較的分かりやすい事例ですが、これらの業務がない業界や業種でも、責任の差が本当に存在しないかどうかよく考えてみましょう。

例えば、顧客対応における最終的な判断権や、チームの調整業務、プロジェクト全体の進行管理なども、正社員とパート社員との間で異なる責任の重さとなり得ます。
ほかにも人事考課の内容の違いや、トラブル対応に対する責任の有無など、業務内容だけでなくその業務に伴う責任についても慎重に整理し、明確に記載することが重要です。

[(2)業務に伴う責任の程度の差について]  に関する記載例
・1年を通して、正社員は「目標管理制度」「行動考課」によって人事考課がなされ、それぞれの内容に対する結果責任および行動責任が求められる。正社員は等級ごとに評価項目が異なり、その難易度も段階的に上がるため、高い責任が伴う。一方で、パート社員については「チェクリスト」と呼ばれる評価項目が存在するものの、等級の段階はなく、正規職員のような結果責任は課されず、行動責任も厳密には評価されない。
・パート社員は日常業務の中で発生するトラブルについては、正社員に報告し、指示を仰ぐことが求められる。緊急時の対応は主に正社員が担当する。
・パート社員は部下を指導する立場にはなく、自身の担当業務を遂行することが主な役割であり部下の育成や評価には直接関与しない。
など。
※必ず自社の実態に即して記載しましょう

4.パート労働者・有期雇用労働者と正社員の職務内容・配置の変更の範囲の違い

職務内容や配置の変更について、正社員とパートタイム・有期雇用労働者の転勤の有無、異動・昇進の有無を明示します。

【考え方】厚生労働省 「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(前半)」 より(改編)

厚生労働省 「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」 より

手順①:パート社員と正社員の転勤(勤務先の事業所が変更になること)の有無が「ともにあり」か「ともになし」か「一方のみあり」かをみます。
「ともにあり」の場合には手順②に、「ともになし」の場合には手順③に。
「一方のみあり」の場合には、「職務の内容・配置の変更の範囲は異なる」ことになります。
「一方のみあり」の場合は、均等待遇の対象ではなく、均衡待遇の対象となります。


手順②:転勤の範囲が「実質的に同じ」か「異なる」かをみます。
「実質的に同じ」であれば「転勤の範囲は同じ」となります。
その場合、手順③に。
転勤の範囲が「異なる」であれば「職務の内容・配置の変更の範囲は異なる」と判断されます。


手順③:「転勤がともになし」あるいは「転勤の範囲が同じ」場合には、パート社員と正社員の職務の内容・配置の変更の有無が「ともにあり」か「ともになし」か「一方のみあり」かをみます。「一方のみあり」の場合には、「職務の内容・配置の変更の範囲は異なる」ことになります。
「ともにあり」の場合は、手順④に。
「ともになし」の場合は、「職務の内容・配置の変更の範囲は同じ」ことになります。
※ここでの職務の内容・配置の変更とは勤務先の変更にかかわらず、事務から営業への職種の変更や、一般社員から主任への昇進などをいいます
(勤務先の事業所の変更は手順①、手順②で確認済み)。


手順④:「ともにあり」の場合には、職務の内容・配置の変更の範囲が「実質的に同じ」か「異なる」かをみます。
「実質的に同じ」であれば「職務の内容・配置の変更の範囲は同じ」と、「異なる」であれば「職務の内容・配置の変更の範囲は異なる」と判断されます。


 <例>
雇用形態にかかわらず転勤がある企業の例を考えてみます。
まず両者とも転勤があるので、「転勤の有無の比較」では「ともにあり」になり、次に「転勤の範囲を比較」が問題になります。正社員は全国的に転居を伴う異動があり、パート社員は転居を伴うことなく、自宅から通える範囲での異動しかないとしている場合には、転勤の範囲が異なるため、「職務の内容・配置の変更の範囲」が異なることになります。

5.パート労働者・有期雇用労働者と正社員の待遇の違い≪手当≫

手当についての違いがあればその内容(支給基準、金額、計算方法等)を詳細に記載します。例えば、通勤手当や性皆勤手当、資格手当などについて、差異があればその内容、違いを設けている理由等をを明確にします。

6.パート労働者・有期雇用労働者と正社員の待遇の違い≪慶弔休暇≫

慶弔休暇に関する待遇の違い、違いを設けている理由等を詳細に記述します。

7.パート労働者・有期雇用労働者と正社員の待遇の違い≪賞与・基本給≫

賞与や基本給についての支給目的、支給方法、違いを設けている理由等を詳細に記載します。

8.パート労働者・有期雇用労働者への説明

 


特に3〜7については、労働局において具体的かつ詳細な説明が求められるようです。
これらの内容を十分に検討・精査し、合理的な説明ができるように考慮した上で、事前にヒアリング票に正確な記載を行うことで、当日の報告徴収もスムーズに進行するでしょう。

正確な情報の提供の重要性

報告徴収の際に提供する情報の正確性は極めて重要です。誤った情報や虚偽の記載をすることは当然ながら事業所にとって重大な法的リスクを伴います。労働局からの調査や指導は、労働者の権利保護を目的としているため、事業所としても誠実かつ正確な対応が求められます。

しかし、事業所が不必要な指導を受けることがないようにするためには、提出する情報が正確であることが重要です。合理的な理由や根拠を明確に説明できるように、事前の準備が必要です。
参考リンクとしている「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界別マニュアル)」、「同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)」については、ぜひともダウンロードしていただいた上で、事前準備されることをお勧めいたします。

【参考リンク】不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル(業界別マニュアル)
【参考リンク】同一労働同一賃金ガイドライン
【参考資料】同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)

なお、労働局からの指導を受けた場合には、その指導内容を真摯に受け止め、改善に努める姿勢が当然ながら求められます。

まとめ

報告徴収に関する通知を受けた際は、関連資料やパンフレットを参照し、適切な対応を行うことが重要です。特に初めて通知を受けた事業所にとっては、手続きや記載内容に戸惑うことも多いでしょう。そのため、専門家のアドバイスを受けながら、準備を進めることをお勧めします。

当事務所では、パートタイム・有期雇用労働法に基づく報告徴収に関するご相談も承っております。記載方法不明な点やお困りの点がございましたら、お気軽にご相談ください。
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