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日経24.7.4 朝刊 年金目減り、就労増で縮小 1.1%成長なら6% / 横ばいだと2割

2024年7月4日 日経新聞 朝刊によると厚生労働省は3日、公的年金制度の中長期的な見通しを示す「財政検証」の結果を公表しました。報告によると、一定の経済成長が続けば少子高齢化による給付水準の低下は2024年度比で6%に止まるとされています。一方、経済成長が横ばいのケースでは2割近く下がるという試算が示されました。高齢者の就労拡大が年金財政を下支えしており、いずれのケースでも前回の2019年検証から減少率が縮小傾向にあることが明らかになりました。

財政検証の背景と目的

財政検証は年金制度が持続可能かどうかを5年に1度点検する仕組みであり、年金をもらう高齢者が増え、財源となる保険料を払う現役世代が減る中、給付水準がどこまで下がるかを確認するものです。政府・与党は検証結果を受けて年内に給付底上げ策などの改革案をまとめる予定です。

今回の検証では、経済成長率や労働参加の進展度などが異なる4つのケースごとに給付水準を計算しました。指標とするのは「モデル世帯(40年働いた会社員の夫と専業主婦の妻)の年金」が現役世代男性の平均手取り収入の何%分にあたるかを示す「所得代替率」です。

4つのケースのうち、厚労省が「めざすべき姿」とする中長期的に一定の経済成長が続く成長ケースでは、2037年度の所得代替率が57.6%となり、給付水準は2024年度から6%低下します。成長率をより高く設定した高成長ケースでは、2039年度に同7%減の56.9%となります。成長ケースの方が高いのは、前提となる賃金上昇率が低い分、「賃金を上回る実質的な運用利回り(スプレッド)」が大きくなるためです。

過去30年間と同じ程度の経済状況が続く横ばいケースでは、2057年度に同18%減の50.4%になります。もっとも悲観的なマイナス成長ケースになると、国民年金の積立金が2059年度に枯渇し、制度が事実上の破綻となるリスクがあります。

前回検証との比較と改善要因

前回の2019年の検証では、所得代替率は最高でも51.9%でした。今回の横ばいケースに近いシナリオでは、政府が目標とする50%を割り込んでいました。給付水準の低下率は今回より大きい傾向が示されましたが、改善した要因は高齢者や女性の労働参加が進み、厚生年金の水準が上がったことと、積立金が2019年想定より70兆円ほど増えたことです。

実現のハードルと今後の展望

しかし、成長ケースの前提条件には実現のハードルが高いものもあります。60代の就業率は2040年に77%と推計しており、2022年から15ポイント上げる必要があります。将来の出生率は1.36としたが、2023年の出生率は1.20でした。1.5%上昇を見込む実質賃金上昇率は2001~2022年度の平均がマイナス0.3%でした。

出生率の早期回復は見込みにくいため、年金制度の安定には就労拡大につながる仕事と育児の両立支援や、新たな年金の支え手となり得る外国人労働者の呼び込み強化といった取り組みが求められます。年金の給付水準は当面、低下が続くため、あらかじめ老後資産を形成しておく重要性が増します。単身者や非正規雇用の人が低年金にならないよう、給付水準の底上げへの配慮も必要です。

今回の財政検証では、65歳で受け取る1人当たりの平均年金額の男女別の見通しも初めて示されました。2024年度は男性が14.9万円、女性は9.3万円です。成長ケースでは2059年度に男性が21.6万円、女性が16.4万円となり、男女差が縮小することが予測されています。

まとめ

日本の年金制度は少子高齢化と経済成長の停滞という大きな課題に直面しています。日本の企業にとって、この年金制度の変動は従業員の将来に直接影響を与えるため、対策が急務です。

1. 高齢者の就労促進

高齢者の就労を促進することは、年金財政の健全化に寄与します。しかし、就労が年金減額に繋がる「働き損」制度の撤廃が必要です。現行の在職老齢年金制度では、65歳以上の賃金と厚生年金の合計が一定額を超えると年金額が減ります。この制度が高齢者の働く意欲を削いでいるとの指摘があり、撤廃することで高齢者の労働意欲を高めることが期待されます。

2. 労働力の多様化

中小企業や福祉施設において、若年層や女性の就労を促進する施策も必要です。特に、介護福祉分野では、人手不足が深刻化しているため、外国人労働者の受け入れや職場環境の改善を進めることが重要です。また、「第3号被保険者制度」の廃止論も議論されていますが、政治的な難しさから即時の廃止は難しい状況です。代わりに、パート労働者が厚生年金に加入しやすくすることで、就労拡大を図る方針が取られています。

3. 賃金制度の見直し

賃金制度を見直し、年金受給者が安心して働ける環境を整備することも重要です。特に、年金と給与の調整を行い、働き続けるインセンティブを提供することが求められます。これにより、高齢者の労働市場参加を促進し、年金財政の安定に寄与することが期待されます。

4. 企業の役割

企業は、従業員の将来の生活設計をサポートする役割を担っています。年金に関する情報提供や、退職後の生活設計に関するカウンセリングを行うことで、従業員の不安を軽減することができます。特に、中小企業にとっては、従業員の老後の安心を確保することが企業の信頼性向上にも繋がります。

このような取り組みを通じて、年金制度の課題に対応し、従業員が安心して働ける環境を整えることが重要だと思います。

【参考リンク】日本経済新聞:年金目減り、就労増で縮小 1.1%成長なら6% / 横ばいだと2割
【参考リンク】日本経済新聞:高齢者の就労後押し 「働き損」制度の撤廃試算

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