新しい資本主義実行計画の改訂案について(1)
6月7日、第28回新しい資本主義実現会議が開催され、新しい資本主義実行計画の改訂案が取りまとめられました。
11の大項目で構成され、労務関連の項目は主に次の2つに含まれています。
Ⅱ 中小・小規模企業等で働く労働者の賃上げ定着
Ⅲ 三位一体の労働市場改革の早期実行
今回のコラムシリーズでは、主にこれらの労務関連について詳しく解説していきます。特に中小企業経営者の皆様に向けて、これらの改訂案がどのように影響するのかをお伝えしていきます。
新しい資本主義実行計画の背景と意義
新しい資本主義の実行計画は、成長と分配の好循環を実現することを目的としています。過去の経済モデルでは、成長を追求する一方で分配の面での不均衡が課題とされてきました。
しかし、新しい資本主義では、賃金の引き上げや労働環境の改善を通じて、経済全体の活性化を図ることが重要視されています。
政府は、この実行計画を通じて、デフレ脱却と賃金上昇の実現を目指しています。これにより、消費の活性化と企業収益の増加が期待され、さらに投資の拡大による労働生産性の向上が図られます。
中小・小規模企業等で働く労働者の賃上げ定着
中小企業は、日本経済の基盤を支える重要な存在です。今回の改訂案では、中小企業で働く労働者の賃上げを定着させるための具体的な施策が盛り込まれています。
価格転嫁の商習慣化の徹底と中小・小規模企業の省力化投資の加速
労務費等の価格転嫁の推進:
- 労務費転嫁指針の更なる周知
- 独占禁止法に基づく労務費転嫁指針の遵守の徹底
- 下請代金法違反行為への厳正な対処
- 地方版政労使会議の開催
- 消費者に対する理解促進
人手不足下での労働生産性向上のための中小・小規模企業の省力化投資:
- 運輸業、宿泊業、飲食業をはじめとした人手不足感の強い業種でのAI/ロボット等の自動化技術の利用拡大
- 各産業の自動化技術を用いる現場労働者の育成に向けたリ・スキリング
- 中小・小規模企業に対する自動化技術等の省力化投資に対する集中的支援
- 資格職等における分業の推進等を通じた人手不足業種への対応
大企業と中小・小規模企業・スタートアップの間の協力関係の確立:
- スタートアップ株の保有促進
- 知的財産権等の現物出資規制への対応
- 秘密保持契約・ライセンス契約の適正化
- 知的財産の侵害抑止
- 副業・兼業における割増賃金の支払いに係る労働時間の通算管理の見直し
- 地域企業経営人材マッチング促進事業を通じたマッチングの推進
- 産業雇用安定センターの活用
これらの施策を通じて、中小企業が持続可能な形で賃上げを実現し、競争力を高めることが期待されています。特に、価格転嫁の商習慣化や省力化投資の推進は、企業の収益向上と労働者の賃金上昇を両立させる重要な施策です。
【参考リンク】内閣官房 新しい資本主義実現会議(第28回)、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版案