デフレ脱却と新たな経済ステージへ:骨太の方針2024(2)

前回のコラムでは、デフレ脱却と新たな経済ステージへの移行について解説しました。今回は、骨太の方針2024「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」について紹介します。

新たなステージに向けた経済財政政策

政府は、これまで経済・財政の一体改革を進めてきました。この改革は、持続可能な成長と財政健全化の両立を目指しています。具体的には、社会保障制度の見直し、税制改革、公共投資の効率化などが進められました。今後の経済財政政策の方向性として、以下の重点分野が示されています:

  • 生産性向上:デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)を通じて、生産性を向上させる。
  • 公的サービスの効率化:公的部門の効率化を進め、民間投資を促進する。
  • 財政健全化:持続可能な財政運営を確保するため、予算の効率化と税制改革を推進する。

中期的な経済財政の枠組み

経済・財政運営の新たな枠組みとして、以下の基本的考え方が示されています:

  • 成長と分配の好循環:経済成長と所得分配を両立させる政策を推進する。
  • 中長期的視点の重視:短期的な対策だけでなく、中長期的な視点から政策を策定する。

財政健全化目標として、以下の点が強調されています:

  • 歳出改革:無駄な支出を削減し、効率的な予算運営を行う。
  • 歳入改革:税制改革を通じて、持続可能な財政基盤を構築する。

税制改革の目標として、公平・簡素・効率的な税制を構築し、経済成長を支えることが挙げられています。具体的には、法人税の見直しや消費税の適正な運用が含まれます。経済・財政一体改革の進捗を定期的に点検・評価し、必要な修正を加えることで、持続可能な経済財政運営を確保します。

主要分野ごとの基本方針と重要課題

(1)全世代型社会保障の構築

全世代型社会保障制度の構築は、少子高齢化に対応し、持続可能な社会を実現するための重要な課題です。以下の取り組みが含まれます:

  • 医療・介護サービスの提供体制の見直し

    • 地域包括ケアシステムの強化:高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けられるよう、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体となったサービス提供体制を整備します。
    • ICTの活用:医療・介護分野におけるICT(情報通信技術)の活用を推進し、電子カルテの普及や遠隔診療の導入により、サービスの効率化と質の向上を図ります。
  • 予防・健康づくりの推進

    • 生活習慣病の予防:健康診断の受診率向上や、健康教育の充実を通じて、生活習慣病の予防を強化します。
    • 高齢者のフレイル対策:適切な運動指導や栄養管理を通じて、高齢者のフレイル(虚弱)対策を推進し、地域社会との連携を強化します。
  • 年金制度の持続可能性の確保

    • 年金支給開始年齢の見直しや、柔軟な年金受給選択肢の導入を検討し、年金制度の持続可能性を高めます。
    • 年金拠出額の見直しや、所得に応じた負担の公平化を進め、年金制度の安定性を確保します。

 

(2)少子化対策・こども政策

少子化対策とこども政策は、「こども未来戦略」、「こども大綱」、および「こどもまんなか実行計画 2024」に基づき、全てのこども・若者が将来にわたって幸せな状態で生活を送ることができる「こどもまんなか社会」の実現を目指しています。この実現により、少子化の流れを変え、社会経済の持続可能性を高めていくことが期待されています。これらの施策の実施に際しては、数値目標を含めた指標を活用し、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを推進することで、効果的な政策運営を図ります。

加速化プランの着実な実施

改正子ども・子育て支援法などに基づき、こども・子育て支援加速化プランが着実に実施されます。具体的な施策には、以下が含まれます:

• 経済的支援の強化:
• 児童手当の抜本的な拡充、出産等の経済的負担の軽減、高等教育費の負担軽減、住宅支援の強化など、経済的なサポートを強化します。
• こども・子育て世帯を対象とする支援の拡充:
• 伴走型相談支援、保育士等の処遇改善、保育士配置基準の改善、こども誰でも通園制度、放課後児童対策、多様な支援ニーズへの対応など、包括的な支援を提供します。
• 共働き・共育ての推進:
• 出生後休業支援給付や育児時短就業給付の創設など、共働き家庭を支援する施策が進められます。これらの施策の財源として、徹底した歳出改革が進められるとともに、子ども・子育て支援金制度が導入されます。

また、官民が連携して、社会全体でこども・子育て世帯を支える意識を醸成する取り組みも進められます。

こども大綱の推進

こども大綱に基づき、全てのこども・若者の健やかな成長を社会全体で支えていくための施策が推進されます。具体的な取り組みには、以下が含まれます:

• 「はじめの100か月の育ちビジョン」:
• 幼児期までの育ちの質を向上させるための施策が推進されます。
• 「こどもの居場所づくりに関する指針」:
• 地方自治体や民間団体への支援を強化し、保育現場の負担軽減を図ります。特に、人口減少地域での保育機能の維持を目指します。
• プレコンセプションケアの推進:
• 5か年戦略に基づき、相談支援等のケア体制を構築します。
• こども性暴力防止と安全対策:
• こども性暴力防止に向けた総合的な対策を実施し、こどもの安全対策を強化します。
• 貧困と格差の解消:
• こども食堂、こども宅食、アウトリーチ支援、学習支援などを通じて、こどもの貧困解消や見守り強化を図ります。

これらの政策により、少子化対策とこども政策は、将来の社会経済の持続可能性を高めるための重要な施策となります。経営者の皆様も、この政策の動向に注目し、自社の取り組みに反映させることで、社会全体の成長に貢献していくことが求められます。

(3)公教育の再生・研究活動の推進

質の高い公教育の提供と研究活動の推進が重要です。以下の取り組みが含まれます:

  • 教育制度の改革

    • 21世紀にふさわしい教育制度の構築を目指し、学校教育の改革を進めます。これには、アクティブラーニングの導入やSTEAM教育(科学、技術、工学、芸術、数学)の推進が含まれます。
  • 研究資金の拡充

    • 基礎研究から応用研究までの幅広い分野での研究資金を拡充し、イノベーションの促進を図ります。産学官連携を強化し、研究成果の社会実装を推進します。

(4)戦略的な社会資本整備

持続可能なインフラの整備と効率的な管理を進めます。以下の取り組みが含まれます:

  • 都市再生

    • 老朽化したインフラの更新や都市の再開発を進め、持続可能な都市づくりを目指します。これには、公共交通の整備や緑地の増設が含まれます。
  • 交通インフラの整備

    • 高速道路や鉄道などの交通インフラの整備を進め、地域間の連携を強化します。また、物流の効率化を図るためのインフラ整備も重要です。

(5)地方行財政基盤の強化

地方自治体の財政基盤を強化し、地域経済の活性化を図ります。以下の取り組みが含まれます:

  • 地方交付税の見直し

    • 地方交付税の配分方法を見直し、地方自治体の財政運営の安定化を図ります。
  • 自治体DXの推進

    • 地方自治体のデジタル化を進め、行政サービスの効率化と住民サービスの向上を目指します。これには、オンライン申請の普及やデータ活用の推進が含まれます。

改革推進のためのEBPM強化

政策の効果的な運用と改善を目的として、エビデンスに基づく政策形成(EBPM)の強化が進められます。これにより、政策の透明性と信頼性を高め、持続可能な経済社会の実現を目指します。

まとめ

全世代型社会保障の構築や各種政策の実行は、中小企業や福祉事業所にとって重要な意味を持ちます。これらの政策が実現することで、社会全体の持続可能な成長が期待される一方で、各事業所が直面する課題も多岐にわたります。経営者として、これらの変革を前向きに捉え、長期的な視点での投資や労働環境の整備、地域社会との連携を強化することが求められます。新たな政策の動向に注目し、自社の強みを活かした戦略を立てることで、持続可能な成長を見据えた対応が重要です。

 

【参考リンク】第8回会議資料:会議結果 令和6年

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