高齢者施設における労働安全衛生のポイント(3)
これまでのコラムで「高齢者施設における労働安全衛生のポイント」について腰痛予防と転倒防止、メンタルヘルスと高年齢労働者の労働災害防止対策というテーマでお話ししました。本日は、シリーズ最終回として「第14次労働災害防止計画」にもある「事業者が自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発の重要性」についてお話しします。
安全衛生対策の重要性
「第14次労働災害防止計画」には、誰もが安全で健康に働くためには、労働者の安全衛生対策の責務を負う事業者や注文者のほか、労働者等の関係者が安全衛生対策について自身の責任を認識し、真摯に取り組むことの重要性が書かれています。そして、このような考えを広く浸透させる努力を続けることも必要です。他方、これらの理念に反し、意図的に安全衛生対策に取り組むことを怠り、労働災害の発生を繰り返す事業者に対しては、罰則の適用も含めた厳正な対応を行うことも記されています。
事業者が自発的に安全衛生対策に取り組むことは、経営や人材確保・育成の観点からもプラスとなります。事業者による安全衛生対策の促進と社会的に評価される環境の整備が必要です。「第14次労働災害防止計画」ではそのための具体的な方策として以下が挙げられます。
情報開示と第三者評価
- 人的資本の可視化: 労働災害の発生件数・割合、死亡数、労働安全衛生マネジメントシステムの導入の有無、健康・安全関連取組など、事業者自らの情報開示と当該情報に基づく第三者の評価を進めます。
国の認定制度の活用
- 認定制度の活用: 安全衛生対策に取り組む事業者を国が認定する取組を通じて、官民・民民の商取引において優先的に選ばれるような社会的理解を醸成します。
費用助成
- 中小事業場への助成: 中小事業場が安全衛生対策に取り組むためには、国が安全衛生対策に要する費用を助成することが有効です。
教育と啓発
新規事業者への教育: 国等が新規事業者に対して本計画の内容を教示し、国や事業者は発注時に安全で衛生的な作業の遂行を損なう条件を付さないこと、契約時において安全衛生対策経費を確保することが必要です。
大学等での教育: 大学等で働く労働者の安全衛生管理を実施する上で、学生に対しても安全衛生教育を促進し、卒業後の事業場での自発的な安全衛生対策推進に貢献することが期待されます。
専門家の助言
- 専門家の活用: 労働安全衛生コンサルタント、労働災害防止団体等の関係者が事業場における安全衛生対策に関して助言を行う際、他の事業場の好事例や当該事業場の状況に即した具体的な取組、エビデンスに基づく労働災害防止の取組とその効果、DXによる業務効率化と安全衛生の確保を両立する取組、安全衛生に取り組むことによる経営や人材確保、育成の観点からの実利的なメリットを説明することが有効です。
具体的取組
安全衛生対策に取り組む事業者が社会的に評価される環境整備
労働者の協力を得て事業者が取り組むこと
安全衛生管理体制の確保: 安全衛生対策や産業保健活動の意義を理解し、必要な安全衛生管理体制を確保した上で、事業場全体として労働者の安全と健康保持増進のための活動に取り組みます。
外部支援の活用: 国や労働災害防止団体が行う支援及び労働安全衛生コンサルタントを活用し、自社の安全衛生活動を推進します。
国等が取り組むこと(抜粋)
責任認識の啓発: 労働者の安全衛生対策の責務を負う事業者や注文者、関係者が自身の責任を認識し、真摯に取り組むことが重要です。消費者やサービス利用者にも、安全衛生対策の必要性や料金に含まれる経費への理解を求め、あらゆる機会を通じて周知啓発を図ります。
社会的評価の仕組み: 「安全衛生優良企業公表制度」、「SAFEコンソーシアム」、「健康経営優良法人認定制度」などの仕組みを活用し、安全衛生対策に取り組む事業者が社会的に評価されるようにします。これらの制度を広く周知し、対象事業場の取引先となり得る発注者や求職者に対しても効果的に周知します。
情報開示の促進: 関係省庁と連携し、「人的資本可視化指針」の周知を図り、労働災害の発生件数・割合、死亡数、労働安全衛生マネジメントシステムの導入の有無、健康・安全関連取組の開示を進める事業者を支援します。
中小事業者の支援: 中小事業者が安全衛生対策に取り組む意欲を喚起するため、経営や人材確保・育成の観点からのメリットや、安全衛生対策に取り組まないことによる損失についての研究を進め、その成果を広く周知します。身近な例を提供し、納得しやすい事例を紹介します。
好事例の周知: 他の事業場の好事例について、業種や規模に即した具体的な取り組みを周知し、事業者の具体的な取り組みにつながるようにします。
- 労働災害防止団体への支援: 労働災害防止団体が行う活動に対して必要な支援を行い、安全管理士等を活用した助言・指導を全国の事業者が等しく受けられるようにします。中小事業者等の意識改革も含めた支援に努めます。
労働安全衛生コンサルタントの活用促進: コンサルタントのメリットを周知し、安全衛生対策に取り組む中小事業者等の意欲を喚起します。日本労働安全衛生コンサルタント会と連携し、コンサルタントの育成を進めます。また、中小企業診断士等と連携し、多様なニーズに応じたワンストップの支援を行う専門家間の連携についても検討します。
労働災害情報の分析と周知
労働者の協力を得て事業者が取り組むこと: 労働者死傷病報告の提出にあたり、電子申請の普及や記載内容の充実に取り組みます。
国等が取り組むこと: 労働者死傷病報告を詳細に分析し、災害原因等の要因解析を深化させるため、労働安全衛生総合研究所等の体制整備を検討します。報告方法について、デジタル技術の活用を進め、効率化を図ります。
安全衛生対策におけるDXの推進
労働者の協力を得て事業者が取り組むこと
デジタル新技術の活用: AIやウェアラブル端末などのデジタル新技術を活用し、効率的かつ効果的な安全衛生活動を推進します。これには、危険有害な作業の遠隔管理、遠隔操作、無人化などによる作業の安全化が含まれます。
健康診断情報の管理: 健康診断情報の電子的な保存・管理や保険者へのデータ提供を行います。プライバシーに配慮しながら、保険者と連携して、年齢を問わず労働者の疾病予防、健康づくりなどのコラボヘルスに取り組みます。
電子申請の活用: 法に基づく申請等について、電子申請を積極的に活用します。これにより、手続きの効率化と透明性を高めます。
国等が取り組むこと
新技術の活用促進: 効率的かつ効果的な安全衛生活動と作業の安全化の推進に向け、ウェアラブル端末などの新技術の活用を促進します。これらの技術が作業の安全化にどの程度有効であるかについて、エビデンスの収集・検討を行います。
規制の見直し: 新技術の推進に当たってハードルとなる規制等について、必要に応じて見直しを行います。これにより、技術革新の障害を取り除きます。
健康診断情報の活用推進: 法に基づいて事業者が実施する健康診断情報を活用した労働者の健康保持増進の取組を推進します。特に、そうした取組が必ずしも進んでいない事業場に対し、健康診断情報の電子的な保存・管理やデータ提供を含めて、コラボヘルス推進のための費用を支援します。
まとめ
高齢者施設における労働安全衛生のポイントとして、第14次労働災害防止計画では「事業者が自発的に安全衛生対策に取り組むこと」の重要性が強調されていました。
安全衛生対策は、労働者の安全と健康を守るだけでなく、経営や人材確保・育成にも大きなメリットをもたらします。
本コラムでは、「第14次労働災害防止計画」の具体的な取り組みとして、情報開示と第三者評価の促進、国の認定制度の活用、中小事業場への助成、教育と啓発、専門家の助言、労働災害情報の分析と周知、そしてDX(デジタルトランスフォーメーション)による安全衛生対策の推進について解説いたしました。
これらの対策を実施することで、事業者が社会的に評価される可能性が高まり、より安全で健康な職場環境を目指すことができます。また、DXの活用により、業務効率化と安全衛生の確保を両立させることが期待されます。最新のデジタル技術を取り入れることは、効率性だけでなく、労働者の健康管理や作業の安全性の向上も見込まれます。
当事務所では、中小企業、介護福祉事業所や障害福祉事業所が安全で健康的な職場環境を実現するための支援を行っています。
皆様の施設でも、ぜひこれらのポイントを参考に、積極的な安全衛生対策に取り組んではいかがでしょうか。