高齢者施設における労働安全衛生のポイント(2)
はじめに
前回は高齢者施設における腰痛と転倒防止について取り上げました。第2回では労働者の「メンタルヘルス」と「高年齢労働者の労働災害防止対策」に焦点を当て、労働環境の改善策を考察します。これらの対策は「第14次労働災害防止計画」においても重要な項目とされています。
メンタルヘルスの重要性
介護労働者は肉体的な負担に加え、精神的なストレスも多く抱えています。利用者との関係や職場環境によるストレスは、メンタルヘルスに大きな影響を及ぼします。「第14次労働災害防止計画」では、労働者のメンタルヘルス対策が強調されています。
令和3年労働安全衛生調査(実態調査)によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の 割合は、使用する労働者数50人以上の事業場で94.4%。
一方、使用する労働者数50人未満の小規模事業場の取組率は、30~49人で70.7%、10~29人で49.6%となっており、特に使用する労働者数30人未満の小規模事業場において、メンタルヘルス対策への取組が低調です。
また、精神障害等による労災請求件数及び認定件数は増加傾向にあります。
使用する労働者数50人未満の事業場がメンタルヘルス対策に取り組んでいない理由については、令和2年労働安全衛生調査(実態調査)によれば、
①該当する労働者がいない(44.0%)
②取り組み方が分からない(33.8%)
③専門スタッフがいない(26.3%)となっており、
小規模事業場を中心にメンタルヘルス対策の取組支援が引き続き必要となっていることがわかります。
メンタルヘルスの問題と原因
- 利用者との関係:感情的な介護やコミュニケーションの困難さが、ストレスの原因となることがあります。
- 職場の人間関係:同僚や上司との摩擦や不和は、メンタルヘルスに悪影響を与えることがあります。
- 過重労働:長時間労働や過度な業務負担は、精神的な疲労を引き起こします。
メンタルヘルス対策
- ストレスチェックの実施のみにとどまらず、ストレスチェック結果をもとに集団分析を行い、その集団分析を活用した職場環境の改善まで行うことで、メンタルヘルス不調の予防を強化する。
- 事業主が職場におけるハラスメント防止対策に取り組む。
高年齢労働者の労働災害防止対策
高齢者施設では、多くの高年齢労働者が働いており、その労働災害防止対策は重要です。「第14次労働災害防止計画」でも、重点項目として「高年齢労働者の労働災害防止対策の推進」が掲げられています。
高年齢労働者のリスクと対策
- 身体的負担の増加:加齢に伴い、身体的な柔軟性や筋力が低下し、労働災害のリスクが高まります。
- 反応速度の低下:高年齢労働者は、緊急時の反応速度が遅くなることがあり、事故のリスクが増加します。
高年齢労働者の労働災害防止対策
- 「エイジフレンドリーガイドライン」に基づき、高年齢労働者の就労状況等を踏まえた安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等の取組を進める。
- 転倒災害が、対策を講ずべきリスクであることを認識し、その取組を進める。
- 健康診断情報の電磁的な保存・管理や保険者へのデータ提供を行い、プライバシー等に配慮しつつ、保険者と連携して、年齢を問わず、労働者の疾病予防、健康づくり等のコラボヘルスに取り組む。
達成目標(アウトプット指標)
第14時労働災害防止計画では、「高年齢労働者の労働災害防止対策推進」事項の取組の成果目標として以下の内容がアウトプット指標として定められています。
高年齢労働者の労働災害防止対策の推進:「エイジフレンドリーガイドライン」に基づく高年齢労働者の安全衛生確保の取組(安全衛生管理体制の確立、職場環境の改善等)を実施する事業場の割合を2027年までに50%以上とする。
まとめ
メンタルヘルスと高年齢労働者の労働災害防止対策は、高齢者施設における労働安全衛生の重要な要素です。「第14次労働災害防止計画」に基づく具体的な対策を講じることで、介護労働者が心身ともに健康で働ける環境を整え、利用者へのサービスの質も向上します。引き続き、安全で働きやすい職場作りを目指していきましょう。