解雇無効時の金銭救済制度について

解雇無効時の金銭救済制度に関する報告書の解説

はじめに

2024年4月12日、労働政策審議会より「解雇無効時の金銭救済制度に関する報告書」が発表されました。この報告書は、労働者が無効な解雇に対して金銭的な救済を求めることができる制度の導入について検討したものです。今回は、その内容を解説します。

解雇無効時の金銭救済制度とは?

解雇無効時の金銭救済制度は、解雇が無効とされた場合に、労働者が金銭的な救済を求めることができる仕組みです。この制度により、解雇が無効と認められた場合でも、職場復帰が難しい労働者に対して金銭的な補償を行い、公正な解決を図ることが目的です。

検討の背景

「新しい経済政策パッケージ」(2017年12月8日閣議決定)に基づき、透明かつ公正な労働紛争解決システムの在り方についての検討が求められました。これを受けて、労働政策審議会は2018年6月に「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」を設置し、専門的な検討を進めました。

解雇をめぐる現状と問題点

解雇が無効とされた場合、通常は職場復帰やバックペイ(解雇時以降の賃金)の支払いが行われます。しかし、職場復帰が困難なケースが3~4割存在することが調査で明らかになっています。また、解決金の額にはばらつきがあり、労使双方にとって金銭的な予見可能性が低いという問題もあります。

独立行政法人労働政策研究・研修機構(以下「JILPT」という。)が日本労働弁護団及び経営法曹会議に所属する弁護士に対して行ったアンケート調査(2005年)において、解雇が無効とされながらも労働者が職場復帰しなかったケースは労働者側弁護士の回答で41.9%、使用者側弁護士の回答で37.5%となっている。(「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」 報告書より)

諸外国の制度

  • イギリス: 労働者は不公正な解雇に対して原職復帰、再雇用、補償金を求めることができます。実際には補償金が多く支払われています。
  • ドイツ: 正当な理由を欠く解雇は無効とされ、労働契約継続を強制するのが解雇法制の中核的ルールとして位置づけられていますが、補償金制度も整備されています。補償金の額は「勤続年数×月給額×0.5」を基準に算定されます。
  • フランス: 解雇が正当性を欠く場合には、不当解雇補償金等の賠償金の支払による救済を原則としています。また、一定の場合には復職も認められます。

制度の基本的な考え方

  1. 労働者の選択肢を増やす: 労働者が職場復帰を希望しない場合に金銭救済を求めることができるようにする。
  2. 迅速な紛争解決: 解雇の効力と解決金の問題を一回の裁判で解決できるようにする。
  3. 予見可能性の向上: 労働者にとって紛争解決の予見可能性を高める。

 

最近の動向

厚生労働省は現在、解雇金銭救済制度に関する実態調査を進めており、この議論はこれらの調査結果を踏まえて再開される予定ですが、調査設計の段階にあるものもあり、具体的なスケジュールは未定とのことです。解雇金銭救済制度については、令和4年に労政審の分科会で導入の是非を含めた議論が行われましたが、労使の意見の隔たりが大きく、分科会長が「引き続き検討していく」と総括した後、進展が見られなかったとの報道もなされています。​ 「24.5.23労働新聞社 記事」より。

まとめ

解雇無効時の金銭救済制度は、労働者の保護と迅速な紛争解決を目指し、労使双方にとって公正な解決を提供します。この制度の導入により、解雇に関する紛争の予見可能性が高まり、迅速かつ公正な解決が期待されます。特に中小企業にとっては、労働紛争のリスク管理が一層重要となるため、事前の対策や適切な対応が求められます。

私見ではありますが、この制度は労働者の権利を守りつつ、企業側にも一定の予見可能性を提供するバランスの取れたアプローチだと思っています。解雇が無効とされた場合の補償方法が明確化されることで、労使間の紛争が減少し、労働環境の安定化につながるのではないでしょうか。

とは言え、この制度導入には慎重な検討も必要です。特に、中小企業にとっては新たな負担となる可能性もあるため、具体的な運用方法や支援策の整備が求められます。今後の議論の進展に注目し、クライアントの皆様には随時最新情報を提供してまいります。

詳細な報告書や関連資料は、以下のリンクからご覧いただけます。解雇無効時の金銭救済制度に関する報告書

menu