職場における熱中症対策が義務化へ──福祉施設が今から準備すべきこととは?

3月12日、第175回安全衛生分科会が開催され、職場における熱中症対策を義務化する労働安全衛生規則改正案の諮問が行われました。

近年、熱中症による労働災害が増加しており、その多くは適切な初期対応が行われなかったことが要因となっています。特に、熱中症による死亡災害の発生率は、他の労災に比べて5~6倍も高いというデータが示されています。

この深刻な状況を受け、政府は「早期発見の体制整備」「重篤化を防ぐ手順の作成」「関係作業者への周知」を義務化する改正案を進めています。令和7年4月上旬に公布され、6月1日より施行される予定であり、すべての事業者は対応を求められることになります。

本記事では、改正のポイントを整理し、特別養護老人ホームや福祉施設の経営者・管理者が具体的にどのような準備を進めるべきかを解説します。

熱中症による労災の実態──「まさか」が現実になる前に

職場での熱中症発生は、気温が上昇する夏場だけの問題ではありません。福祉施設では、高齢者の入浴介助、厨房での調理作業、屋外でのレクリエーションなど、年間を通じて高温環境での作業が発生します。

特に以下のような状況は、発生する可能性があるケースとして想定されます。

想定ケース①:作業中に異変を感じても、報告できなかった

例えば、入浴介助を担当していた職員が「少し頭が重い」と違和感を覚えたものの、忙しさのあまりそのまま業務を続けてしまうことがあります。もしこの状態が続けば、意識を失い、倒れるリスクが高まります。報告体制が整っていなければ、異変に気づいた同僚も誰に伝えればよいか分からず、対応が遅れる可能性があります。

想定ケース②:緊急対応マニュアルが不十分だった

厨房職員が調理中に熱中症の初期症状を訴えた場合、現場に適切な冷却措置の手順が定められていなければ、対応に手間取り、症状が悪化するかもしれません。単に水を飲ませるだけではなく、「作業からの離脱」「身体の冷却」「緊急連絡の手順」が明確でなければ、結果として救急搬送が必要になる事態につながることも考えられます。

「危険に気づいていながら、適切な対応ができなかった」──このような事態を防ぐために、今回の改正が必要なのです。

改正のポイント──義務化される3つの対策

令和7年6月1日から施行される改正では、以下の3つの項目が罰則付きで義務化されます。

① 早期発見のための体制整備

熱中症の兆候が見られる作業者、またはそれを発見した作業者がすぐに報告できる仕組みを整える

事業場ごとに連絡先や担当者を明確化し、関係者に周知する

職場巡視、バディ制の導入、ウェアラブルデバイスの活用などの対策を推奨

チェックポイント

☑ 「誰に報告すればいいのか」を明確にしているか?

☑ すぐに対応できる管理者が配置されているか?

② 重篤化を防ぐための実施手順の作成

作業からの離脱

身体の冷却(冷却剤、冷却スペースの確保)

必要に応じた医師の診察や救急搬送

緊急連絡網や搬送先の情報整理

チェックポイント

☑ 冷却スペースは確保されているか?

☑ 緊急時の連絡手順が従業員全員に周知されているか?

③ 関係作業者への周知

掲示や文書配布を活用し、明確な手順を共有

周知の記録保存は義務付けられないが、労働基準監督署の調査時に説明できるようにする

チェックポイント

☑ 口頭説明だけでなく、掲示や資料配布を行っているか?

☑ 新人スタッフにも適切に伝わる仕組みになっているか?

福祉施設の経営者が今から準備すべきこと

福祉施設では、利用者の安全とともに、職員が安全に働ける環境を確保することが求められます。今回の改正によって、熱中症対策が形式的な取り組みではなく、実践的な義務として問われる時代になります。

今のうちに見直しておくべきポイント

緊急時の報告・対応マニュアルは整備されているか?

職員への周知方法(掲示物・リーフレットなど)は十分か?

実際に緊急時に対応できる体制があるか?

これらの項目を一つでも不安に感じた場合、今のうちに専門家と一緒に見直しておくことが重要です。

まとめ──「知らなかった」では済まされない時代に

今回の改正は、単なる法改正ではなく、「職員の命を守るための重要な措置」です。対応が不十分な場合、事業者には責任が問われるだけでなく、施設全体の運営にも影響が及びます

「うちの施設は大丈夫だろう」 そう思っている間に、万が一の事態が起こったら──。

職員が倒れ、利用者へのサービス提供が難しくなるような事態を防ぐためにも、今すぐ準備を進めるべきタイミングではないでしょうか?

対応に不安がある方は、専門家に相談することで、スムーズな対策が可能になります。

施設の安全を守るために、今すぐできることから始めましょう。

【参考サイト】第175回労働政策審議会安全衛生分科会

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