福祉施設の宿直許可|必要な措置とは?~監視,断続的労働に従事する者に対する適用除外許可と最低賃金除外申請のポイント~

「宿直業務を導入したいけれど、通常の労働時間と同じように扱うとコスト負担が大きくなる……」

これは、介護施設の経営者やグループホームの管理者からよく寄せられる相談です。介護施設やグループホーム等では、利用者の夜間の見守りや緊急対応が求められますが、宿直を通常の勤務として扱うと、人件費が増加し、経営を圧迫する可能性があります。

このような場合に活用できるのが、「断続的労働の許可」と「最低賃金の減額特例許可」です。これらの許可を取得することで、適正な労務管理を維持しながら、施設運営の負担を軽減することが可能になります。

本コラムでは、宿直業務の適正な運用のために必要な許可申請とその具体的なポイントを解説します。

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宿直とは?夜勤とは違う働き方

宿直業務を適切に導入するためには、「夜勤」と「宿直」の違いを正しく理解することが重要です。

夜勤の特徴

夜勤は、日勤と同じように通常の業務を行う働き方です。

  • 食事・排泄・入浴などの介助業務を担当
  • 労働時間の制限(1日8時間以内、変形労働時間制適用の場合を除く)が適用される
  • 深夜(22時~翌5時)は25%以上の割増賃金が必要

宿直の特徴

一方、宿直は「基本的に待機時間が中心」であり、突発的な業務に対応する働き方です。

  • 通常の介護業務は行わず、緊急対応が主な業務
  • 手待ち時間が長く、実作業時間が少ない
  • 労働時間規制の適用除外を受けられる可能性がある(ただし、深夜労働に関する割増賃金は必要)

つまり、夜勤は「労働」、宿直は「待機」がメインであるという点が大きな違いです。

監視,断続的労働に従事する者に対する適用除外許可とは?

監視,断続的労働に従事する者に対する適用除外許可の目的

宿直業務を導入する際、労働基準法の労働時間規制を適用除外とするために必要な許可の一つが「監視,断続的労働に従事する者に対する適用除外許可申請」(様式第14号)です。許可を取得することで、宿直中の時間が通常の労働時間としてカウントされなくなり、時間外手当などの負担を軽減できます。

監視,断続的労働に従事する者に対する適用除外許可の要件

厚生労働省のパンフレットによると、以下の条件を満たせば「断続的労働の許可」を受けることができます​。

  • 宿直中の業務が間欠的であり、手待ち時間が実作業時間を上回ること
  • 精神的・身体的な負担が少ないこと(通常の介護業務を行う場合は不可)
  • 宿直と通常の勤務が混在していないこと

特に重要なのは、「通常の勤務と連続していないこと」です。日勤から続けて宿直を行う場合などは、許可の対象外となる可能性があります。

※日勤から続けて宿直を行うようなケースは、以前のコラムでご紹介しました【「断続的な宿直・日直勤務」に従事する者の労働時間等に関する規定の適用除外許可申請】(様式10号)によって、許可申請を受けます。

最低賃金の減額特例とは?

減額が認められる条件

「断続的労働の許可」を取得したとしても、最低賃金の適用をそのまま受けると、賃金コストが高くなってしまいます。そのため、一定の条件を満たせば「最低賃金の減額特例許可」を受けることが可能です。

  • 宿直中の手待ち時間が長く、実作業時間が短いこと
  • 労働基準監督署の許可を受けていること
  • 業務の負担が軽く、精神的緊張が少ないこと

減額率の計算方法

最低賃金の減額率は、以下の計算式で決定されます。

減額率=(0.4×手待ち時間)/(実作業時間+手待ち時間)


減額率 = \frac{0.4 \times 手待ち時間}{実作業時間 + 手待ち時間}
例えば、宿直8時間のうち、実作業時間が2時間・手待ち時間が6時間の場合、

減額率=(0.4×6)​/(2+6)=30

この場合、最低賃金の70%での支払いが可能になる可能性があります。

【参考サイト】最低賃金の減額の特例許可申請書様式・記入要領
【参考資料】最低賃金の減額の特例許可申請について ~「断続的労働に従事する者」(最低賃金法第7条第4号)~ 

減額特例許可申請の流れ

必要書類

監督署へ申請する際には、以下の書類を準備する必要があります​。

✅ 監視・断続的労働の適用除外許可申請書(様式第14号
✅ 対象労働者の勤務実態を示す資料(タイムスケジュール・業務マニュアルなど)
✅ 対象労働者の労働条件が分かる資料(雇用契約書など)

特に「宿直業務の勤務実態を示す資料」が重要で、監督署の調査に影響を与えます。

「断続的な宿直・日直勤務」と「監視、断続的労働」—様式第10号と様式第14号の違い

宿直勤務や断続的労働に関する適用除外許可を受ける際には、「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書(様式第10号)」と「断続的労働に従事する者に対する適用除外許可申請書様式(第14号)」のいずれかを適切に選択する必要があります。これらの様式は対象となる労働者の勤務形態に応じて使い分けるものであり、申請時の誤りは許可の取得に影響を及ぼす可能性があります。

断続的労働に従事する者に対する適用除外許可申請書(様式第14号)

様式第14号を使う「断続的労働に従事する者に対する適用除外許可申請」は労働者単位での申請が求められるものであり、長期間にわたり断続的労働に従事する職員を対象とします。

  • 適用対象:夜間専門の職員や、修繕係、寄宿舎の賄人など、手待ち時間が長く実作業時間が少ない業務に従事する労働者
  • 申請の目的:特定の労働者に対し、労働時間・休憩・休日の適用除外を個別に認めること
  • 許可の効果:監督署の許可を受けることで、個々の労働者ごとに断続的労働としての適用除外が認められ、通常の労働時間規制とは異なる管理が可能になる

この許可を得ることで、施設側は長期間にわたる夜間勤務者に対し、柔軟な労働時間管理を行うことができるようになります。

断続的な宿直又は日直勤務許可申請書(様式第10号)

以前のコラムでもご紹介しましたが、この申請は、事業所単位で許可を受けるものであり、施設全体の運営として宿直勤務を導入する場合に用います。

  • 適用対象:正社員が当番制で週1回程度の頻度で宿直勤務を行う場合
  • 申請の目的:宿直勤務において、労働時間・休憩・休日に関する適用除外を受けること
  • 許可の効果:監督署の許可を得ることで、施設全体として宿直勤務を通常の労働時間管理から切り離し、時間外手当の発生を回避できる

様式10号と様式14号の使い分け

項目監視,断続的に従事する者
(様式第14号)
断続的な宿直又は日直勤務
(様式第10号)
許可の単位労働者単位
そのため、入退職の度にメンテナンス(申請)必要。
事業所単位
適用対象夜間専門
週1回勤務といった要件はとくになし
週1回の当番制宿直勤務
週1回を超える勤務が恒常的になると許可取り消される可能性も
目的監視、断続的労働
労働時間制適用除外
宿直・日直勤務
労働時間規制の適用除外
賃金・宿直手当について拘束時間全てが対象。また、割増賃金については、深夜割増のみ適用。
最低賃金減額特例あり
同種の労働者に支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1以上。
時間外、深夜割増分 不要

申請に際しては、施設内の勤務形態が宿直(様式第10号)に該当するのか、断続的労働(様式第14号)に該当するのかを慎重に判断し、適切な様式を選択することが求められます

まとめ:施設運営を守るために、今こそ適切な労務管理を

介護施設で宿直勤務を導入する場合、適正な許可を取得することで、施設の運営負担を抑えながら、法令を遵守した安定的な運営が可能になります。

施設運営に適した宿直制度を構築するために

✔ 「断続的労働の許可」を取得し、労働時間規制の適用除外を受ける
✔ 「最低賃金の減額特例許可」を申請し、賃金負担を軽減する
✔ 労働基準監督署への申請書類を適切に整え、スムーズな手続きを行う

これらの手続きは、施設の運営を健全に保つために欠かせませんが、実際の申請は専門的な知識と経験が必要です。申請要件の確認や、監督署とのやり取りを施設の担当者が独力で行うのは、大きな負担となるでしょう。

適正な労務管理は、施設の信頼と経営安定につながる

介護施設の経営者や管理者として、「人件費を抑えながら、法令遵守した労務管理を実現したい」とお考えではありませんか?適切な宿直制度を導入することで、職員の負担を軽減し、施設の安定した運営を実現することができます。

また、宿直勤務の制度を正しく運用することは、職員の定着率向上にもつながります。「夜勤は大変だけど、宿直なら負担が軽い」という理由で働き続ける職員もいるかもしれません。施設の労働環境が適正に整っていれば、職員の離職を防ぐことができ、採用のコストを抑えることにもつながります。

貴施設に最適な労務管理のサポートを提供します

私たち社労士事務所では、介護施設の現場を深く理解したうえで、宿直制度の適正な運用と申請手続きをサポートしています。

「うちの施設の宿直は、許可の対象になるのだろうか?」
「労務管理に不安があるが、何から手をつければいいかわからない…」

このようなお悩みがあれば、ぜひ一度、ご相談ください。
施設の運営課題に合わせた最適な労務管理をご提案し、貴施設の安定経営をサポートいたします。

適切な宿直制度の導入は、施設の未来を守る第一歩です。

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