2025年4月施行「育児時短就業給付金」とは

2025年4月1日からスタートする「育児時短就業給付金」について、厚生労働省の公式サイトで詳細なパンフレットが公表されました。

これまで企業の人事担当者や経営者の方々にとって、「どのような要件で支給されるのか?」「具体的な支給額の計算方法は?」と疑問を抱えていた方も多いでしょう。今回、その内容が明らかになったことで、より実務に即した対応が求められるようになります。

ただし、適切な対応をしなければ、「従業員の不満」「思わぬ財務リスク」に直面する可能性もあります。

本記事では、育児時短就業給付金の支給要件や計算方法、そして事業主として押さえておくべきポイントについて、詳細に解説します。

「育児時短就業給付金って結局どんな制度なの?」と感じている経営者や人事担当者の方に向けて、実務で役立つ情報をお届けします。

【参考リンク】厚生労働省 育児休業等給付について
【参考資料】厚生労働省パンフレット 育児時短就業給付の内容と支給申請手続(令和7年2月版)

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1. 育児時短就業給付金とは?

「育児時短就業給付金」とは、2歳未満の子を養育するために所定労働時間を短縮して働く場合に、一定の条件を満たせば受け取れる雇用保険の給付金です。
従来、育児休業給付金はありましたが、「育児時短」で働く場合の経済的支援制度はありませんでした。今回の新設により、育児休業を取得せずに時短勤務を選択した場合でも、一定の補助を受けられるようになります。

支給対象者,各月の支給要件,支給対象となる時短就業(育児時短就業)

支給対象者

  • 雇用保険の被保険者であること
  • 2歳未満の子を養育するために時短勤務をすること
  • 育児休業給付の対象となる育児休業から引き続き育児時短就業を開始したこと、
  • もしくは、育児時短就業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月が12か月あること

各月の支給要件

  • 初日から末日まで続けて、被保険者である月
  • 1週間当たりの所定労働時間を短縮して就業した期間がある月
  • 初日から末日まで続けて、育児休業給付又は介護休業給付を受給していない月
  • 高年齢雇用継続給付の受給対象となっていない月

支給対象となる時短就業(育児時短就業)

育児時短就業給付金の支給対象となる時短就業(育児時短就業)とは、2歳に満たない子を養育するために、被保険者からの申出に基づき、事業主が講じた1週間当たりの所定労働時間を
短縮する措置をいいます。

・1週間当たりの所定労働日数を変更した結果、1週間当たりの所定労働時間が短縮される場合を含みます。
・短縮後の1週間当たりの所定労働時間に上限・下限はありません。このため、育児・介護休業法に基づく所定労働時間の短縮措置(1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含むもの。)に限らず、2歳に満たない子を養育するために1週間当たりの所定労働時間を短縮した場合は、育児時短就業と取り扱います。
・被保険者が子を養育するために短時間正社員、パートタイム労働者等に転換、転職したことに伴い、1週間当たりの所定労働時間が短縮されている場合も、育児時短就業と取り扱います。
・ただし、短縮後の1週間当たりの所定労働時間が20時間を下回る場合は、子が小学校就学の始期に達するまでに1週間の所定労働時間が20時間以上となる労働条件に復帰することが前提であることが就業規則等の書面により確認できる場合を除き、雇用保険の被保険者資格を喪失することとなり、育児時短就業給付金の支給対象となりません。

つまり、「2歳未満の子の育児を理由に時短勤務をする人」を支援する制度です。
出産後、フルタイムに戻るのが難しいけれど、完全な育児休業を取得するのではなく「時短勤務」で仕事と育児を両立したい人にとって、大きな支えとなるでしょう。

未対応の企業が抱えるリスクとは?

✅ 「この制度を知らなかった」と従業員が後から知り不信感を持つ
✅ 時短勤務者の増加によるシフト調整の負担が増大する

「知らなかった」では済まされないため、今すぐ本制度および社内制度の確認が必要です!

2. 支給額の計算方法

それでは、実際にいくら支給されるのか、支給額の計算方法について見ていきましょう。

基本的な考え方としては、
「時短勤務によって減少した賃金の一部を補填する」 という仕組みになっています。

<支給額の基本計算式>

  1. 支給対象月に支払われた賃金額が、育児時短就業開始時賃金月額の90%以下の場合
    育児時短就業給付金の支給額= 支給対象月に支払われた賃金額× 10%
  2. 支給対象月に支払われた賃金額が、育児時短就業開始時賃金月額の90%超~100%未満の場合
    育児時短就業給付金の支給額= 支給対象月に支払われた賃金額× 調整後の支給率
  3. 支給対象月に支払われた賃金額と、「1」又は「2」による支給額の合計額が支給限度額を超える場合
    育児時短就業給付金の支給額= 支給限度額- 支給対象月に支払われた賃金額

なお、以下のような制限があります。

  • 支給額と賃金の合計が、時短勤務を開始する前の賃金を超えないよう調整される
  • 1か月の支給限度額は459,000円(2025年7月31日までの金額)
  • 支給額が2,295円を超えない場合は支給されない

3. 支給額の詳細な調整方法

実際の支給額は「時短前の給与の90%を超えるかどうか」で調整が入るため、もう少し詳しく見ていきます。

支給率の調整ルール

① 時短勤務後の給与が「時短前の給与の90%以下」の場合 → 10%支給
② 時短勤務後の給与が「時短前の給与の90%超~100%未満」の場合 → 調整あり
③ 時短勤務後の給与が「時短前の給与の100%以上」の場合 → 支給なし

例えば、以下のようなケースを考えてみましょう。

<具体例①:給与が90%以下の場合>

  • 時短勤務開始前の給与:300,000円
  • 時短勤務後の給与:260,000円(給与減額率=86.6%)
  • 支給額:260,000円 × 10% = 26,000円

このケースでは、時短前の給与の90%を下回っているため、10%の支給率が適用されます。

<具体例②:給与が90%超100%未満の場合>

  • 時短勤務開始前の給与:300,000円
  • 時短勤務後の給与:280,000円(給与減額率=93.3%)
  • 調整後の支給率 ={9,000 × 300,000 ÷ (280,000 × 100)-90}÷100=0.0642…≒6.43%
  • 支給額 = 280,000円 × 6.43% = 18,004円

このように、給与が90%を超えている場合は、10%の満額が支給されるわけではなく、調整後の割合で支給されます。

4. 「知らなかった…」では済まされない!想定されるトラブル事例

想定される事例①:制度を知らなかったことで、従業員の不満が爆発

ある企業では、育児時短就業給付金の存在を知らず、時短勤務を希望する社員に「支援はない」と伝えてしまった。後に社員がこの制度を知り、「会社が給付金の情報を隠している!」と不信感を持ち、離職に発展。

想定される事例②:誤った給与計算で企業側が負担増

時短勤務者の給与計算を誤り、給付金支給条件を満たさない設定になっていた。その結果、「想定していた給付金が支給されず、企業側がその分を補填する羽目に」。

適切な情報提供と給与設計が、企業の信頼を守るカギとなる!

5. よくある質問(FAQ)

育児時短就業給付金について、企業や従業員が疑問に思う点をまとめました。

Q1. 育児時短就業給付金が支給されない場合とは?

以下の場合は、育児時短就業給付金が支給されません。

✅ 時短勤務を開始しても、給与が時短前の100%以上のまま

✅ 1か月の給与が支給限度額(459,000円)を超えた場合

✅ 支給額が2,295円未満の場合

✅ 育児休業給付金を受給中の月

✅ 高年齢雇用継続給付を受けている月

Q2. 育児休業から復帰した後、すぐに時短勤務をしなければ支給されませんか

「育児休業給付金」から「育児時短就業給付金」へスムーズに移行する場合は、途切れなく支給されます。
ただし、育児休業からの復職後、14日以内に時短勤務を開始した場合も、引き続き時短就業を開始したものとして取り扱われます。

Q3. 1週間の所定労働時間が20時間未満になった場合は?

雇用保険の被保険者資格を失うため、育児時短就業給付金の対象外となります。
ただし、小学校就学前までに週20時間以上に戻ることが前提で時短就業をしている場合は、その労働条件等が確認できる書類の添付があれば受給可能です。

Q4.特別な労働時間制度の適用を受けている場合などは、申請書の「本来の週所定労働時間」、支給対象月の「週所定労働時間」はどのように計算すればいいですか?

以下のとおりです。
・フレックスタイム制、変形労働時間制の適用を受けている場合
 清算期間(対象期間)の総労働時間÷ 清算期間(対象期間)の月数× 12 月÷ 52週
・裁量労働者制の適用を受けている場合
 1日のみなし労働時間× 5日
・いわゆる「シフト制」で就労する場合
 該当期間の実際の労働時間 ÷ (該当期間の暦日数÷ 7日)

6. まとめ:企業の対応が問われる時代に

「育児時短就業給付金」は、単なる給付制度ではなく、企業の育児支援のあり方を問う新たな仕組みでもあります。今後、労働力不足が深刻化する中で、育児と仕事を両立しやすい環境を整えることが、企業にとっても競争力の向上につながります。

「この制度があることを知らなかった…」という従業員がいないように、企業側が適切な情報提供を行い、育児と仕事を両立しやすい職場環境をつくることが求められます。

特に、育児時短就業給付金は2025年4月に施行される新制度であり、企業側の認識が追いついていないケースも多いと思われます。この制度を適切に活用することで、従業員の定着率を高め、働きやすい環境を整えることもできるでしょう。

「どのように社内制度へ落とし込めばいいかわからない」「実際の申請フローを詳しく知りたい」 という企業様向けに、当事務所では個別相談を承っています。
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本コラムを通じて、「育児時短就業給付金」を企業戦略の一環として活用するためのヒントを得ていただけたら幸いです。
今後も、企業の労務管理に役立つ情報を発信していきます。

 

【参考リンク】厚生労働省 育児休業等給付について
【参考資料】厚生労働省パンフレット 育児時短就業給付の内容と支給申請手続(令和7年2月版)

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