介護施設に求められるMBWA(Management by Walk Around)とは?~現場に寄り添う管理者の姿勢が変える介護施設の未来~

もう十数年前のことになるかと思いますが、一気に見終えたドキュメンタリー番組が、今も心に残っています。どこのテレビ局のどういった番組だったかは失念してしまいましたが、ある介護施設で、管理者が朝一番に現場を歩き、利用者やスタッフに声をかける姿が映されていました。その姿勢はまさに「現場主義」を体現しており、施設全体の雰囲気が生き生きとしていることが伝わってきました。

しかし、同じ番組で紹介された別の施設では、管理者が現場に一切足を運ばず、業務を会議室から指示するだけの姿が映し出されました。この対比が、現場を歩く管理手法の重要性を深く考えさせてくれました。

この「歩き回りながら管理する」という姿勢を体系化したものが、MBWA(Management by Walk Around)です。本記事では、この手法が介護施設にどのような価値をもたらすのか、成功例と失敗例を交えながら、具体的な実践方法を解説します。

MBWA(Management by Walk Around)とは何か?その本質を紐解く

MBWAは、「管理者がデスクに座ってばかりではなく、現場を歩き回ることで現状を把握し、改善策を模索する」手法です。この考え方は米国の企業経営者が広めたものですが、「人と人の関係性」が核心にある介護施設の管理にも非常に適しています。

MBWAの本質は、単なる見回りではなく、現場との直接的な対話と観察を通じて課題を発見し、改善することにあります。このため、表面的な「見ているふり」や、「一方的な指示出し」とは一線を画します。

MBWAの成功事例:規模を問わない現場改善

MBWAの効果は、施設の規模に依存しません。大規模な施設であっても、小規模な施設であっても、現場主義の姿勢は同じように有効です。

小規模施設の事例:5名のスタッフが働くデイサービス施設

あるデイサービス施設では、管理者がスタッフと日常的に顔を合わせる機会が多いにもかかわらず、「現場の声が管理者に届きにくい」という課題がありました。原因は、日々の忙しさの中で、管理者がスタッフと深く話す時間を取れていなかったことです。

そこで、管理者が1日1回、各スタッフと個別に3分間だけ会話を交わす「ミニMBWA」を取り入れました。この短時間の対話で、業務上の悩みだけでなく、スタッフの体調やプライベートの心配ごとにも耳を傾けるようにしたところ、スタッフが自発的に「自分の負担を軽くするためのアイデア」を出すようになり、施設全体の運営が効率化しました。

大規模施設の事例:150名規模の介護老人保健施設

一方で、150名のスタッフが働く大規模な介護老人保健施設でも、MBWAは同様に効果を発揮しました。この施設では、管理者が複数の階層に分かれており、現場のスタッフとの距離が遠いという課題がありました。
そこで、施設長と副施設長が交代で週に1回、各フロアを回り、各階のリーダーと対話する時間を設けるようにしました。この取り組みを半年間続けた結果、現場から「施設長がリーダーを通じて私たちの意見を聞いてくれる」という信頼が生まれ、スタッフ同士の連携が強化されました。

これらの事例からも分かるように、MBWAは施設の規模を問わず、管理者が「現場に寄り添う姿勢」を示すことで効果を発揮します。

MBWAの失敗事例:表面的な導入が招いた混乱

一方で、MBWAが失敗に終わったケースもあります。別の施設では、管理者が「現場の状況を把握する」として歩き回るようになりましたが、その実態は「ただ見て回るだけ」でした。スタッフからは「結局何も変わらない」「見られているだけでストレス」との声が上がり、むしろ職場の雰囲気が悪化する結果となりました。

失敗の原因は、管理者が本来の目的である「傾聴」と「改善」ではなく、単なる「監視」として行動していたことにありました。このような形では、MBWAは逆効果となり、現場の信頼を失う可能性があります。

MBWA導入の3つの成功要素

MBWAを効果的に実践するためには、以下のポイントが重要です。

  1. 「対話」を中心に据える
    ただ歩き回るだけではなく、スタッフや利用者との対話を通じて課題を引き出すことが鍵です。

  2. 「フィードバック」を欠かさない
    聞いた意見に対して、何らかのフィードバックを必ず行い、行動に移す姿勢を見せることで信頼を得ます。

  3. 「継続する」ことを重視する
    MBWAは一度の実施で完結するものではありません。定期的に現場に足を運び、少しずつ改善を積み重ねる必要があります。

まとめ:現場と共に歩む管理者が未来をつくる|MBWAの価値

私は多くの介護施設のコンサルティングを通じて、MBWAの効果を実感してきました。管理者が現場に寄り添うことで、スタッフの離職率が低下し、職場環境が改善されることは間違いありません。また、労働法の視点から見ても、管理者が現場を理解していることで、職場のハラスメントや業務負担の偏りといったトラブルを未然に防ぐことが可能です。例えば、スタッフから寄せられる小さな不満を見逃さず、早期に対応することで、大きな問題に発展するリスクを減らすことができます。

MBWAは、単なる管理手法ではありません。それは、現場の声を聞き、課題を発見し、改善を続けるという「管理者の姿勢そのもの」です。

施設の規模を問わず、管理者が現場に足を運ぶことで、スタッフと利用者の双方に信頼と安心を与えることができます。忙しい日常の中で現場を歩き回る時間を確保することが、長期的な施設の成長を支えるのです。

では、今の職場ではどうでしょうか?

✅ 管理者は現場の実態を正しく把握していますか?
✅ スタッフの不満や負担は、適切にキャッチできていますか?
✅ 利用者やご家族が安心できる環境を整えられていますか?

もし、「現場の状況が把握しきれていない」「スタッフの意見が届きにくい」と感じるなら、今すぐMBWAを取り入れる第一歩を踏み出してみましょう。「毎日10分だけ現場を歩く」ことからでも十分です。

当事務所では、介護事業所、福祉施設、医療法人等の労務管理や職場環境の改善に関するコンサルティングを行っています。MBWAをどう実践するべきか、現場の課題をどう解決していくか、実際に成功した事例をもとにアドバイスが可能です。

まずはお気軽にご相談ください。現場に寄り添う一歩を、今日から踏み出してみませんか?

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