カスタマー・ハラスメント(カスハラ)対策の最前線|東京都のカスタマー・ハラスメント防止ガイドラインについて (1)

2024年12月25日、東京都は「カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」を公表しました。本ガイドラインは、2024年10月に制定された「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」に基づくもので、2025年4月から施行されます。このガイドラインは、事業者が従業員を守るための具体的な方策を示しています。

東京都がカスハラ防止のために具体的な指針を示した背景には、顧客等による迷惑行為が就業者の人格や尊厳を侵害し、就業環境を害する深刻な問題となっていることがあります。今回のガイドラインでは、カスハラの定義や類型を明確化し、事業者に求められる対応策を整理 しました。

本コラムでは、数回のシリーズ に分け、東京都のカスハラガイドラインの全容を解説します。

【参考リンク】東京都 カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン) 
【参考資料】東京都 カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)[PDF]
【参考資料】東京都 カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)[スライド版]

1. 東京都の「カスタマー・ハラスメント防止指針(ガイドライン)」とは?

東京都のガイドラインの目的は、以下の3点に集約されます。

  • 従業員の人格や尊厳を守る
  • 事業者の安定した事業運営を確保する
  • 社会全体でカスハラを防止し、公正な労働環境を構築する

企業は、適切なカスハラ対策を講じることで、従業員の心理的安全性を確保し、企業のブランド価値向上につなげることが求められます。

2.カスタマーハラスメントの定義

(定義)
第2条第4号 著しい迷惑行為 暴行、脅迫その他の違法な行為又は正当な理由がない過度な要求、暴言その他の不当な行為をいう。
第2条第5号 カスタマー・ハラスメント ①顧客等から就業者に対し、②その業務に関して行われる著しい迷惑行為であって、③就業環境を害するものをいう。(東京都カスタマーハラスメント防止条例より)

◆カスタマー・ハラスメントの定義

⚫ 「カスタマー・ハラスメント」とは、上記①から③までの要素を全て満たすものをという。
⚫ 要素を全て満たさない場合でも、「著しい迷惑行為」そのものは、刑法等に基づき処罰される可能性や、民法に基づき損害賠償を請求される可能性がある点に留意する必要がある。

 

「著しい迷惑行為」の考え方

「著しい迷惑行為」とは、社会通念上許容される範囲を超えた過度なクレームや要求、暴言、威圧的な言動などを指します。

具体例

  • 長時間にわたるクレーム対応の強要

  • 侮辱的な発言や名誉毀損に該当する言動

  • 正当な理由なく土下座を要求する

  • 従業員のプライベートに関する不適切な質問・干渉

  • 店舗や施設での居座り・業務妨害

「就業環境を害する」の考え方

「就業環境を害する」とは、就業者が業務を遂行する上で、安全・快適に働ける環境が侵害されることを意味します。

判断基準

  • 就業者の精神的負担が増大し、業務遂行が困難になる

  • 職場の雰囲気が悪化し、従業員の士気が低下する

  • 企業の適切な業務運営が妨げられる

3. 「事業者」の定義

事業者とは、従業員を使用して事業活動を行う者を指します。

具体的な対象

  • 法人(会社、NPO法人、医療法人など)

  • 個人事業主

  • 公的機関(自治体、教育機関、福祉施設など)

4. 「就業者」の定義

東京都のガイドラインでは、「就業者」とは、事業者のもとで業務に従事する者を指します。

  1. 一般の従業員(正社員、契約社員、パート、アルバイト)
  2. 外部委託先の従業員(警備員、清掃員、訪問介護スタッフなど)
  3. 研修・実習生(インターン生、技能実習生など)
  4. 派遣労働者(派遣会社を通じて勤務するスタッフ)
  5. 都の区域外の業務従事者(東京都外で勤務する従業員も含まれる)
  6. インターネット上で業務を行う者(オンラインカスタマーサポート等)

5. 「顧客等」の定義

「顧客等」には、以下のような者が含まれます。

  1. 顧客(商品・サービスの購入者、取引先など)

  2. 就業者の業務に密接に関係する者(施設の利用者、医療機関の患者、介護施設の入居者など)

  3. その他、就業者と業務上関わる者(訪問者、取引関係者、外部業務委託者など)

6. まとめ

カスタマー・ハラスメントは、もはや一部の企業や業界だけの問題ではなく、すべての事業者が直面しうる重大な経営課題となっています。従業員の安全と尊厳を守ることは、単なる企業の義務ではなく、組織の持続的な成長と信頼の確立に不可欠な要素 です。

本ガイドラインの明確化により、カスハラの定義が具体化され、事業者に求められる対応策が整理されました。しかし、実際の現場では、「どこまでが許容範囲なのか?」「顧客対応の線引きはどうするべきか?」といった判断に迷うことも多いでしょう。

こうした課題を放置すれば、従業員の離職率の上昇、メンタルヘルス不調の増加、ひいては企業のブランド価値の低下につながる 可能性があります。一方で、適切なカスハラ対策を講じることで、従業員の安心感が向上し、結果的に顧客満足度や企業の信頼性を高めることができます。

では、具体的にどのように対応すればよいのか? 「ルールの策定」「従業員の教育」「社内体制の整備」 をバランスよく行うことが求められます。しかし、これを社内だけで適切に進めるのは容易ではありません。

当事務所では、「ハラスメント防止コンサルタント」の資格を持つ専門家 が、貴社のカスハラ対策をサポートいたします。

✅ カスハラ対応ポリシーの策定 ✅ 従業員向け研修の実施 ✅ クレーム対応のマニュアル整備 ✅ 法的リスクを考慮した対応策のアドバイス

企業の対応力を高め、カスハラから従業員を守ることは、企業価値の向上にも直結します。カスハラ対策の導入や見直しをお考えの経営者・人事担当者の皆様は、ぜひ当事務所にご相談ください。

次回のコラムでは、カスハラの具体的な行為類型や実際の事例を詳しく解説していきます。

【参考リンク】東京都 カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン) 
【参考資料】東京都 カスタマー・ハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)[PDF]
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