労働安全衛生対策の最新動向と企業に求められる対応
厚生労働省の労働政策審議会(会長:清家 篤 日本赤十字社社長、慶應義塾学事顧問)は、昨年4月から、安全衛生分科会(分科会長:髙田 礼子 聖マリアンナ医科大学予防医学教室主任教授)において、11回にわたり議論を重ねた結果、令和7年1月17日に「今後の労働安全衛生対策」に関する建議を公表しました。
この建議の内容を踏まえ、厚生労働省では法律案要綱を作成し、労働政策審議会に諮問する予定です。企業にとっては、今後の法改正に向けた準備が求められます。本記事では、この建議の要点と企業が対応すべきポイントを詳しく解説します。
【参考資料】今後の労働安全衛生対策について(建議)
【参考資料】今後の労働安全衛生対策について(概要)
1. 個人事業者等を含めた労働災害防止対策
背景と目的
近年、フリーランスや個人事業主の増加に伴い、従来の労働安全衛生法が想定していなかった働き方への対応が求められています。
主な施策
- 個人事業者向けの安全衛生教育の義務化
- 危険作業における機械使用制限
- 個人事業者向けの労働災害報告制度の創設
- 混在作業環境での安全対策の強化
企業が取るべき対応
- 外注やフリーランスとの契約時に、安全教育の受講履歴を確認
- 作業現場での安全管理基準を見直し、危険作業のリスクを最小限に
2. ストレスチェック義務化の拡大
背景と目的
企業のメンタルヘルス対策は、従業員の健康を守るだけでなく、職場の生産性向上にも不可欠です。過去のコラムでもご紹介しましたが、現在、50人以上の事業場に義務付けられているストレスチェックが、50人未満の事業場にも適用される方向となりました。
主な施策
- 50人未満の事業場に対するストレスチェック義務化
- 事業規模に応じた適用方法の整備
- メンタルヘルス対策に関する事業者支援の拡充
企業が取るべき対応
- ストレスチェック実施体制の確立(外部委託の検討)
- メンタルヘルス研修の実施
- 産業医や専門カウンセラーとの契約
事務負担の増加への懸念
小規模事業者にとって、ストレスチェックの義務化は大きな事務負担となる可能性があります。特に、以下の点が課題となるでしょう。
- ストレスチェックの適切な運用管理
- 結果のプライバシー管理
- メンタル不調を訴えた従業員への対応策の整備
このような背景から、簡易的なストレスチェック方法の導入が検討されるべきだと思います。
3. 高年齢労働者の労働災害防止
背景と目的
高年齢労働者の増加に伴い、労働災害が増加しています。企業には、よりきめ細やかな安全対策が求められています。
主な施策
- 事業者に対し、高年齢労働者向けの安全対策を努力義務化
- 国による安全対策の指針公表
企業が取るべき対応
- 高年齢労働者向けの安全衛生研修の実施
- 転倒防止措置や設備の改善
- 健康診断結果を踏まえた配置転換の検討
4. 化学物質管理の厳格化
背景と目的
化学物質による労働者の健康被害を防ぐため、規制が強化されます。
主な施策
- 化学物質の有害性情報の通知義務の強化
- 通知義務違反に対する罰則の導入
- 個人ばく露測定の義務化
企業が取るべき対応
- SDS(安全データシート)の確認と周知
- 作業環境測定の実施
- 有害物質を扱う従業員への健康診断の強化
5. 事務所の見解
今回の建議の中で特に注目すべきは、ストレスチェックの義務化拡大です。従来、50人以上の事業場のみが対象だった制度が、小規模事業者にも適用されることで、社会全体のメンタルヘルス対策が大きく変わることになります。
しかし、これは単なる制度改正ではありません。実際の運用においては、事務負担の増大、従業員のプライバシー管理、メンタル不調者への対応基準の整備など、多くの企業が直面するであろう課題が山積しています。
特に小規模事業者にとって、ストレスチェックの実施は新たな負担となるでしょう。産業医契約が義務付けられていない企業では、ストレスチェック結果を適切に活用するための体制構築が難しくなる可能性もあります。このような現状を踏まえ、外部委託の選択肢を検討することが求められます。
労働環境の改善は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、適切な施策と戦略をもって臨むことで、企業は長期的に見てより健全な職場環境を築くことができるでしょう。当事務所では、ストレスチェック導入支援や安全衛生対策のアドバイスを提供し、企業が円滑に対応できるよう支援していきます。
働く環境を守ることは、企業の成長を支えることにつながります。労働法の改正に柔軟に対応しながら、安全で健全な職場づくりを目指しましょう。