「労働基準関係法制研究会」報告書が公表(2)|労使関係の進化と新たな協働の形

「このままではいけない」と思いつつ、具体的な一歩を踏み出せずにいる経営者の方も多いのではないでしょうか。労務管理の変革は、待っていても進みません。

前回のコラムでは、令和7年1月8日に厚生労働省より公表された「労働基準関係法制研究会」の報告書について、概要と現行の労働基準関係法制が抱える構造的課題について解説しました。

今回のテーマは「労使コミュニケーションのあり方」。労働環境が日々変化する中で、使用者と労働者がいかに適切な対話を重ね、共に成長できる環境を作るか。この視点が、企業の持続的な発展にとって不可欠です。

特に「複数事業場での一括手続」と「労使コミュニケーションの目指すべき姿」は、今後の企業経営に大きな影響を与える重要な論点です。「今はまだ問題になっていない」と思っているうちに、法改正が進み、気づけば取り残されていた…そんな状況を避けるためにも、今こそ対策を考えるタイミングです。

【参考サイト】厚生労働省 「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表します
【参考資料】厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書

複数事業場での一括手続

現行制度の課題

現在、労働基準法に基づく労使協定の手続きは、原則として事業場単位で行われています。このため、全国に複数の事業場を持つ企業では、事業場ごとに労使協定を締結し、監督署に届け出る必要があります。これにより、以下のような問題が生じています。

  • 手続きの煩雑さ:各事業場で同一の内容を繰り返し協議し、個別に届け出る手間が発生。
  • コストの増大:事業場ごとの対応により、人的・時間的コストが増加。
  • 統一性の欠如:同一企業内であっても、事業場ごとに内容が異なる場合がある。

報告書が提案する改善策

報告書では、複数事業場を持つ企業が一括して労使協定を締結し、届け出を行える仕組みを導入することが提案されています。これにより、以下の効果が期待されています。

  • 手続きの簡略化:事業場ごとの重複手続きが不要となり、企業全体で効率的な運用が可能。
  • コストの削減:人的資源や時間の削減につながり、経営資源を本来の事業活動に集中可能。
  • 統一的な労働条件の確保:企業全体で一貫した労働条件を適用できることで、従業員間の公平性が向上。

この提案は、特に全国展開している企業や、多拠点を持つ中小企業にとって重要な制度改革となるでしょう。

労使コミュニケーションの目指すべき姿

労使間の信頼構築の重要性

報告書では、労使コミュニケーションを単なる交渉の場から、労働環境の改善や企業の成長に向けた「協働の場」として位置づける必要性が強調されています。これには、以下のような具体的な取り組みが含まれます。

  • 過半数代表者の選出ルールの明確化:
    過半数代表者が労働者全体の意見を反映できるよう、選出方法や役割の透明性を向上。
  • 労使協定締結プロセスの適正化:
    双方の対話を基盤とし、現場の実情を反映した協定内容を作成。
  • 情報共有と意見収集の仕組み強化:
    労働条件や経営方針に関する情報を労働者に開示し、意見を反映するプロセスを構築。

労使コミュニケーションの深化による効果

労使間の信頼が強化されることで、以下のような成果が期待されます。

  • 従業員のエンゲージメント向上:労働者が自身の意見が反映されると感じることで、職場への満足度とエンゲージメントが向上。
  • 生産性の向上:良好な労使関係が、モチベーションと職場環境の改善を促進。
  • トラブルの未然防止:透明性の高いコミュニケーションにより、労務トラブルの発生を予防。

当事務所の見解

「複数事業場での一括手続」と「労使コミュニケーションの目指すべき姿」は、企業が持続可能な労務管理を実現するための鍵となります。

特に、多拠点を持つ企業では、一括手続の導入によって労務管理の効率が飛躍的に向上することが期待されます。手続きの簡素化により管理部門の負担が軽減され、戦略的な経営資源の配分が可能になるのです。また、統一的な労働条件を確保することで、従業員間の待遇格差が減少し、職場の公平性が向上するでしょう。

一方で、単なる制度変更だけでは真の意味での労務環境の改善にはつながりません。労使コミュニケーションの深化こそが、企業の持続可能な発展に不可欠な要素です。透明性のある対話を通じて、労働者の意見を経営判断に反映させることが、信頼関係の構築につながります。

「うちは大丈夫」と考えている企業ほど、気づけば法改正に対応できず、トラブルに巻き込まれるケースが増えています。今後の規制強化や法改正を見据え、今から対策を始めることが、企業の持続的な成長を支えるカギとなります。

当事務所では、こうした新しい枠組みへの移行をスムーズに進めるためのサポートを提供し、クライアント企業の競争力向上と従業員満足度の向上を実現してまいります。今こそ、労務管理の見直しに着手し、将来のリスクを未然に防ぐタイミングです。

次回のコラムでは、報告書の「労働時間法制の具体的課題」に焦点を当て、さらに詳しく解説していきます。

【参考サイト】厚生労働省 「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表します
【参考資料】厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書

次回のコラムでは、報告書の「労働時間法制の具体的課題」に焦点を当て、さらに詳しく解説していきます。

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