「労働基準関係法制研究会」報告書が公表(1)|未来の働き方を見据えた法改正の方向性

これまでも当コラムでも何度か取り上げてきた「労働基準関係法制研究会」(座長:荒木尚志東京大学大学院法学政治学研究科教授)の報告書が、令和7年1月8日に厚生労働省より公表されました。
この報告書は、現行の労働基準関係法制の課題を整理し、働き方改革や労働基準法等の見直しについて包括的かつ具体的に検討した結果がまとめられています。
今後の労働環境の変化に伴う対応や、企業経営における労務管理の重要な指針として注目される内容です。

なお、今回のコラムでは、この報告書を数回に分けて詳しく解説していきます。第1回目となる今回は、報告書の背景や主な目的、そして注目ポイントを整理し、全体像を掴んでいただく内容としました。詳細については、厚生労働省の公式サイトにてご覧いただけます。

【参考サイト】厚生労働省 「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表します
【参考資料】厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書

報告書の目的と主な内容

報告書の目的

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)附則第12条に基づき、労働基準法等の見直しについて議論するために設置された「労働基準関係法制研究会」がまとめた報告書です。報告書の目的は以下の通りです。

1.労働環境の変化に対応する法的枠組みの再構築

テレワーク、副業・兼業、フリーランスといった多様な働き方が広がる中で、現行法制では対応しきれない課題に取り組む。

2.労使間の信頼関係を強化する仕組みの構築

労働条件の適正な設定と運用、労使協定の実効性確保など、働きやすい環境を整備する。

3.法の適用範囲の見直し

労働者の定義や労働時間の管理基準など、現行法の適用が不十分な点を改善する。

報告書の注目ポイント

1. 労働者・事業の定義の見直し

現行の労働基準法は、雇用契約に基づく労働者を中心に構成されています。しかし、副業やフリーランス、ギグワーカーといった新しい働き方が普及する中、誰を「労働者」として法的に保護するべきか、その適用範囲を明確にする必要があるとしています。
また、労働基準法における「事業」の定義が、現代の働き方や企業形態に即しているかを再検討する必要が指摘されています。従来の場所的単位の概念がリモートワークや一括管理モデルに対応できていない現状が課題として挙げられており、新たな法的枠組みの構築が求められています

2. 労働時間管理の見直し

労働時間に関する規制が一律的である現状は、多様化する働き方に対応できていないという課題があります。フレックスタイム制やテレワークといった柔軟な勤務形態を導入しやすくするための制度設計が求められています。

3. 労使間コミュニケーションの改善

報告書では、労働条件の設定における労使間の対話の重要性が強調されています。過半数代表者の選出方法や労使協定の締結過程における透明性の向上が、今後の課題として挙げられています。

4. 労働からの解放に関する規制

労働基準法では、休憩や休日、勤務間インターバル制度など「労働からの解放」を支える仕組みが設けられています。これにより、労働者が十分な休息を確保し、疲労の回復と生産性の向上を図れるようにしています。報告書では、この規制が企業にもメリットをもたらすとして、その必要性が再確認されています。
また、報告書では、「つながらない権利」にも着目し、勤務時間外に労働者が仕事から解放される権利を確保する重要性が述べられています。特に欧州諸国の事例を参考に、不利益取扱いの禁止や連絡時間帯の明確化などが具体策として挙げられています。また、年次有給休暇制度の見直しも論じられ、計画的な取得促進と柔軟な運用が提案されています

5.割増賃金規制について

副業・兼業を行う労働者について、労働基準法第38条に基づき、異なる事業主間で労働時間を通算して割増賃金を支払う仕組みが現行では適用されています。ただし、これに伴う煩雑な手続きや負担が、企業が副業を許可しづらい要因ともなっています。報告書では、健康管理と割増賃金の制度を分離し、合理的な対応策を検討する必要性が指摘されています​。

当事務所の見解

労働基準法をはじめとする労働基準関係法制は、労働者の最低限の権利を守るための重要な基盤です。しかし、働き方の多様化が進む中で、これらの法制は時代に合った形で進化する必要があります。

特に報告書で指摘されている 「労働者の定義」 や 「労働時間管理」 に関する見直しは、労使双方にとって極めて重要なテーマです。新たな働き方に対応する柔軟な制度を設計することで、企業は労務管理の透明性を向上させ、労働者は働きやすい環境を手に入れることができます。

当事務所では、以下の観点からこの報告書を重視しています。

1. 労務管理の透明性と柔軟性の向上

これからの労務管理は、法的リスクを回避するだけでなく、労使間の信頼を深めるための透明性が求められます。そのため、労働時間管理や労使協定の見直しを通じて、働きやすい環境を整備する必要があります。

2. 新たな働き方への積極的な対応

副業やテレワーク、フリーランスといった多様な働き方が主流になりつつある現代において、企業はこれらを取り込む柔軟な対応力を求められます。当事務所では、こうした新しい働き方に対応するための具体策を提案し、経営者や人事担当者がより良い労務管理を実現できるようサポートします。

労働基準関係法制の見直しは、企業にとってリスクでもあり、成長のチャンスでもあります。この変化を前向きに捉え、適切な対応を行うことで、企業の競争力向上と従業員満足度の向上を同時に実現することが可能です。当事務所は、法改正の動向を注視しながら、企業が適切な対応を取れるよう全力で支援してまいります。

 

【参考サイト】厚生労働省 「労働基準関係法制研究会」の報告書を公表します
【参考資料】厚生労働省「労働基準関係法制研究会」報告書

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