50人未満事業場へのストレスチェック実施義務化:新たな課題と求められる対応
2024年11月6日、厚生労働省が開催した第170回労働政策審議会安全衛生分科会において、「50人未満の事業場へのストレスチェック義務化」が本格的に議論されました。この動きにより、中小企業や医療・介護施設の経営者は、新たな対応を迫られることになります。これまで努力義務にとどまっていた小規模事業場においても、メンタルヘルス対策の実施が義務化される方向に向かうことが明らかになったのです。
今回の改正は、すべての事業場に影響を与える可能性があります。ストレスチェックの導入は、単なる義務ではなく、職場の健全な環境づくりの一環として考えるべきものです。ただし、経営者にとっては負担も増えるのは事実。
以前のコラムでもお伝えしましたが、この動きは、特に中小企業や医療・介護施設の経営者にとって、大きな転機となるでしょう。
どう対応すればいいのか、一緒に考えてみましょう。
【参考リンク】第170回労働政策審議会安全衛生分科会
【参考資料】ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策について
なぜストレスチェックが義務化されるのか?
そもそもストレスチェック制度は、2015年12月から従業員50人以上の事業場で義務化されていました。この制度の目的は、従業員が自分のストレス状態を把握し、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことにあります。しかし、50人未満の事業場では義務ではなく、実施率も低いのが実情でした。
一方で、精神的ストレスを理由にした労災申請や休職者の増加が問題視されています。特に、介護施設や医療機関では、慢性的な人手不足と過重労働が重なり、従業員のストレスは高まりやすい状況にあります。
こうした背景を受けて、「50人未満の事業場でもストレスチェックを義務化すべきでは?」という流れになったわけです。
新たな議論のポイント──何が変わるのか?
今回の分科会での議論では、以下のような要点が取り上げられました。
- ストレスチェックの義務化:50人未満の事業場にも義務を拡大。プライバシー保護の観点から外部委託を推奨し、従業員の個人情報保護に配慮。監督署への結果報告義務は課さない方針。
- 国による支援策:小規模事業場向けに現実的で実効性のある実施方法を提示するマニュアル作成。地域産業保健センターの体制強化を図り、高ストレス者の面接指導を支援。
- 準備期間の確保:制度周知と支援体制を整備し、施行までに十分な準備期間を確保する。
義務化のメリットとデメリット
ストレスチェックの義務化には、もちろんメリットもあります。しかし、経営者にとっては負担も生じます。メリットとデメリットを整理してみましょう。
メリット
- 職場環境の改善:ストレスチェックの結果を活用することで、職場の課題を可視化できる。
- 従業員の健康意識向上:自分のストレス状態を把握することで、セルフケアの意識が高まる。
- 離職率の低下:メンタルヘルス対策を強化することで、従業員が安心して働ける環境をつくる。
デメリット
- 実施コストの負担:特に小規模事業場では、ストレスチェックの費用負担が問題となる。
- プライバシー管理の難しさ:少人数の事業場では、従業員の結果が特定されやすく、デリケートな運用が必要。
- 対応リソースの不足:人事担当者がいない事業場では、誰が対応するのか明確にする必要がある。
実施に向けた対応策
中小企業や医療・介護施設がこの制度を円滑に導入するためには、以下のような対応が求められます。
- 外部委託の活用:ストレスチェックの実施は、労働者のプライバシー保護の観点から外部機関の活用が推奨されています。これにより、事業場内の人員負担を軽減することができます。
- 教育・研修:経営者や人事担当者、従業員全体に対して制度の目的や実施方法を正しく伝え、メンタルヘルスの重要性を理解してもらうことが重要です。
- 資金的支援の活用:国や地方自治体が提供する補助金や助成金を活用し、経済的負担を軽減することも有効です。
当事務所の見解
労働者の心身の健康が保たれることは、企業の持続的成長に直結し、経営者にとっても価値ある投資となるのではないでしょうか。
しかしながら、特に小規模事業場においては、経済的・人的リソースの制約により、この新たな義務は負担となることが予想されます。国や関係機関による十分な支援がない場合、導入が難しいと感じる事業者も少なくないでしょう。したがって、当事務所としては、これらの事業場における柔軟な実施体制を整えるために、具体的な支援策の拡充が必要であると考えます。例えば、マニュアルの簡易化や外部機関のコスト負担軽減策の導入など、より実現可能な施策は必要だと考えています。
ただ、この新しい義務化を単なる規制ではなく、経営戦略の一環として捉えることは、職場の改善と労働者の満足度向上につながると信じています。
当事務所は、今後も中小規模事業場の実践的な支援を行い、経営者が無理なく対応できるようサポートを続けていきます。
【参考リンク】第170回労働政策審議会安全衛生分科会
【参考資料】ストレスチェック制度を含めたメンタルヘルス対策について