「スタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈について」(令和6年9月30日基発0930第3号)が発出されています

2024年9月30日、厚生労働省から「スタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈」が発出されました。この通達は、スタートアップ企業や研究開発に従事する労働者に対して、どのように労働基準法が適用されるべきかを明確にする重要な指針です。

スタートアップ企業は、革新的なビジネスモデルや技術を迅速に市場に投入し、急成長を目指す企業ですが、特に創業当初は労働条件が曖昧になりがちです。そのため、この通達がスタートアップ企業における労働基準法の運用において重要な指標となります。

労働者の該当性について

労働者と役員の線引き

労働基準法が適用される「労働者」に該当するかどうかは、契約の形式や役職に関わらず、使用従属性によって判断されます。これは、労働者が業務遂行に対して指揮命令を受けているかどうか、また勤務場所や勤務時間に拘束されているかによって判断されます。例えば、スタートアップ企業の取締役であっても、業務の実態が会社の指揮監督下にある場合、労働基準法上の労働者と見なされることがあります​。

管理監督者の適用基準

スタートアップ企業において、特に創業初期には経営者と従業員の区別が不明確な場合があります。労働基準法第41条に基づき、「管理監督者」に該当する場合、労働時間や休憩の規制が適用されませんが、以下のような実態に基づいて判断されます。

  • 取締役や部長であっても、労務管理に関する権限を有し、経営に重要な役割を担っている場合に限り、管理監督者として認められます。
  • 組織内での役職に基づく肩書だけではなく、実際に業務を指揮監督し、重要な決定権を有していることが求められます。

機密の事務を取り扱う者について

労働基準法第41条に規定される「機密の事務を取り扱う者」についても、スタートアップ企業ではその判断が求められます。「機密の事務を取り扱う者」とは、経営者や監督者と密接に連携し、厳格な労働時間管理が困難な職務に就いている者を指します。

例えば、秘書や経営者の右腕として機密事項に関与する場合、この該当者として認められ、労働時間の規制を免除されることがあります。このような労働者がスタートアップ企業においても存在する可能性があるため、慎重な判断が必要です。

専門業務型裁量労働制の導入

専門業務型裁量労働制の適用要件

スタートアップ企業の中には、技術革新や新商品の開発に特化した労働者が多く存在します。このような場合、専門業務型裁量労働制を導入することが可能です。この制度は、労働時間を自由に管理し、業務の専門性に応じた労働形態を認めるものです。

  • 新商品や新技術の研究開発に従事する労働者や、システムコンサルタントのような高度な専門性を必要とする業務を行う労働者が、この制度の対象となります​。
  • ただし、この制度の適用には、労働基準法第38条の3に基づく要件を満たす必要があります。導入の際には、企業は適正な運用を確保し、労働者の健康や安全に配慮することが求められます。

新技術・新商品の研究開発に係る特例

労働基準法第36条第11項では、新技術や新商品の研究開発に従事する労働者に対して、時間外労働の限度時間が適用されない特例が設けられています。これにより、研究開発業務に従事する者は、柔軟な働き方が可能になりますが、その代わりに労働者の健康管理が重要視されます。

  • 1か月あたり100時間を超える時間外労働が行われた場合には、医師による面接指導が義務付けられており、過労や健康被害を防ぐための措置が求められています。
  • これにより、企業は研究開発従事者に対する労働環境の整備を行う必要があります。

当事務所の見解

社会的正義の実現を目指して

労働基準法は、単なる労働条件の規制を超え、社会的正義を実現するための柱として機能しています。しかしながら、特にスタートアップ企業にとって、事業の急成長を追い求める中で、労働基準法の遵守に苦労するケースが少なくありません。企業の成長とともに、労働者の権利保護が後回しになりがちだからです。しかし、今回の通達は、スタートアップ企業がどのように労働基準法を適用すべきかについて、ある程度方向性を示すものとなっており、ガイドラインとしての役割を果たすことが期待されています。

労働基準法の適用範囲が明確になることで、企業は成長を追求しながらも、労働者の権利保護を適切に行うための指針を得られるようになります。当事務所では、この通達がどのように実務に影響を与えるのかを見極め、法に基づいたアドバイスを提供してまいります。

社会全体への公平性を意識した経営

スタートアップ企業が急速に成長する一方で、労働者の権利保護が重要視されない場面も少なくありません。企業の拡大を優先するあまり、労働条件や時間管理の整備が不十分になるケースも見受けられます。しかし、労働者は企業の成功に欠かせない存在であり、適切な労働環境を提供することが、長期的な企業の発展につながることを理解する必要があります。

今回の通達によって示されたガイドライン的な指針は、スタートアップ企業が労働基準法を遵守しながらも、柔軟な経営を行うための道筋を示しています。当事務所では、こうした指針を活用し、労働者の権利保護と企業の成長を両立させるための具体的な提案を行っています。

社会的課題の解決に向けた支援

企業は、その活動を通じて社会全体に影響を与える存在です。そのため、労働基準法の遵守は、労働者の権利を守るだけでなく、地域社会や経済全体における公平性を保つための基本的な責任でもあります。特にスタートアップ企業が成長を続ける中で、従業員の健康管理や労働条件の適正化に注意を払うことが、社会的な信頼を築き、長期的な成長を確保するための重要な要素です。

今回の通達は、スタートアップ企業が社会的責任を果たしつつ、柔軟な労務管理を実現するための指針としても機能しています。当事務所では、企業がこの通達を活用して、持続可能な成長を実現できるよう、法的助言を行い、長期的なビジョンを持った経営のサポートを提供します。

【参考資料】令和6年9月30日基発0930第3号スタートアップ企業で働く者や新技術・新商品の研究開発に従事する労働者への労働基準法の適用に関する解釈について

 

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