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社労士の守秘義務:信頼の要石

いつも当事務所のコラムをご覧いただき、ありがとうございます。今回は、社会保険労務士(以下、社労士)の業務における最も重要な原則の一つである「守秘義務」について、ある日の出来事を交えてお話しさせていただきます。

本コラムで紹介しているエピソードは、守秘義務の重要性を伝えるため、実際の経験をもとに再構成し、登場人物や状況設定などの詳細を大幅に変更しています。特定の個人や団体を示唆するものではなく、あくまでも一般的な事例として扱っております。本コラムの趣旨をご理解いただき、プライバシー保護の観点から作成されていることをご承知おきください。

ある日曜日の出来事

先日の日曜日、私は長男のサッカーの練習に付き添っていました。小学校のグラウンドで、息子が友達と楽しそうにボールを追いかける姿を見ながら、仕事のことは忘れてひと時の家族サービスを楽しんでいました。

練習が終わり、息子と手を繋いで帰る道すがら、小腹が空いたので近くのファミレスに立ち寄ることにしました。席に着き、息子と今日の練習の話で盛り上がっていると、隣のテーブルから聞こえてきた会話に思わず耳を疑いました。

「そうそう、A社の案件なんだけど、退職勧奨の話が出てるんだよね。」
「えっ、あのA社? 大変そうだね。具体的にはどんな感じなの?」

私は思わず、コーヒーを飲もうとしていた手を止めてしまいました。隣のテーブルでは、明らかに社労士と思われる二人が、クライアント企業の名前を出しながら、大きな声で相談案件について話し合っていたのです。

二人の様子をちらりと見ると、一人は50代半ばくらいのベテラン風の男性、もう一人は30代前半くらいの若くてやる気に満ちた風の女性でした。ベテラン風の男性が話を続けます。

「うーん、具体的には書けないけど、『金銭解決』の方向で進めようとしてるみたい。」
「へー、それって...***万円くらいの金額?」と若手の女性が食いつくように聞きます。
「そんなもんじゃないよ。もっと上だね。」とベテラン風の男性が答えます。

私は息子に「宿題やるの手伝おうか」と話しかけながら、隣のテーブルの会話に耳を傾けていました。彼らの会話は続きます。

「すごいですね!でも、こういう話って、ここでしていいんですか?」若手の女性が少し不安そうに尋ねます。
「大丈夫だよ。誰も聞いてないし、名前も出してないからね。」とベテラン風の男性が軽く答えます。

その瞬間、私は愕然としました。彼らは明らかにクライアントの機密情報を公の場で話しているにもかかわらず、それを問題だと認識していないようでした。

守秘義務の重要性

社労士は、「社会保険労務士法」第21条(秘密を守る義務)及び第27条の2(開業社労士の使用人等の秘密を守る義務)において守秘義務を課されています。これは単なる法律上の義務ではなく、プロフェッショナルとしての倫理観と信頼性の根幹をなすものです。

私がサラリーマン時代、そしてコンサルタント時代に経験してきた中で、クライアントの情報を外部で話すことは最もタブー視されていました。特に、人事や労務に関する情報は、企業にとって極めて機密性の高い情報です。

しかし、先ほどの光景を目の当たりにして、私は考え込んでしまいました。このベテラン風の男性は、これまでの経験の中で、こういった基本的なことを学ぶ機会がなかったのでしょうか。若手の女性は、先輩の行動を見て、これが普通のことだと勘違いしてしまうのではないでしょうか。

信頼関係の崩壊

このような行為が及ぼす影響は、計り知れません。

  1. クライアントの信頼喪失:自社の機密情報が公の場で話題にされることで、社労士への信頼が完全に失われます。
  2. 法的リスク:守秘義務違反は、社労士資格の取り消しにつながる可能性があります。
  3. 風評被害:SNSなどで拡散されれば、クライアント企業にも大きな風評被害が及ぶ恐れがあります。
  4. 業界全体の信頼低下:一部の社労士の不適切な行為が、業界全体の信頼性を損なう可能性があります。

適切な情報共有の方法

もちろん、社労士同士で情報交換や相談をすること自体は、業務の質を高める上で重要です。しかし、それには適切な方法と場所があります。

  1. クローズドな環境での議論:事務所内の会議室や、プライバシーが確保された場所で行う。
  2. 匿名化した情報の使用:企業名や個人名を伏せ、事例として一般化した形で議論する。
  3. オンラインの活用:セキュリティが確保されたオンライン会議システムを利用する。

事務所としての見解

当事務所は、守秘義務を社労士業務の根幹を成す最重要事項と位置付けています。クライアントの皆様から寄せられる信頼は、私たちの財産であり、その信頼を裏切るようなことは決してあってはなりません。

この出来事は、私にいくつかの教訓を与えてくれました。

  1. 常に緊張感を持つこと
    公共の場所では、たとえ同業者との会話であっても、クライアントに関する情報を口にしないよう、細心の注意を払います。
  2. 教育の重要性
    守秘義務の重要性について、定期的に所内研修を実施し、全スタッフの意識向上を図ります。ベテランも若手も、常に基本に立ち返る姿勢が必要です。
  3. システムによる管理
    クライアント情報へのアクセス権限を厳密に管理し、不必要な情報漏洩リスクを最小限に抑えます。
  4. クライアントとの信頼関係構築
    守秘義務に対する当事務所の姿勢を明確に伝え、安心してご相談いただける環境を整えます。

おわりに

息子とファミレスを出る際、私は隣のテーブルの二人が楽しそうに話している姿を見ました。彼らは自分たちの会話が他人にどのような影響を与えるか、気づいていないようでした。

「パパ、あの人たち何の話してたの?」と息子に聞かれ、私は少し考えてから答えました。「約束を守ることの大切さを教えてくれてたんだよ。」

「聞かざる、言わざる、見ざる」という言葉がありますが、社労士にとってはまさに「言わざる」が金科玉条です。クライアントの信頼を裏切らない、真のプロフェッショナルとしての矜持を持ち続けることが、私たちの使命だと考えています。

皆様の大切な情報を守り、最高のサービスを提供することが、私たちの喜びです。今後とも、当事務所をよろしくお願いいたします。

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