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定期健康診断結果のプライバシー保護と健康情報の適切な取り扱いについて

今回は、定期健康診断の結果をどのように扱うべきか、従業員のプライバシーを保護しながら、企業としてどのように法令を遵守し、安全な職場環境を維持していくべきかを解説いたします。

最近のご相談の中でも、特に多いのが「健康診断結果の取り扱い」についてです。従業員の健康情報は非常にデリケートな情報であり、適切に管理しなければ従業員との信頼関係に悪影響を与えかねません。それでは、具体的な事例を交えながら解説を進めていきましょう。

数年前、ある介護施設での出来事

本コラムに登場する個人名や事業所名は、すべて仮名であり、実際の人物や事業所とは異なるもので、内容を一部アレンジしております。

都内にある介護施設「ひだまり苑」では、毎年定期的に従業員の健康診断を実施しています。しかし、ある年の健康診断の後、人事担当の山田さんは、ある従業員からこんな相談を受けました。

「健康診断の結果を衛生推進者に知られたくないんです。私のプライバシーですし、必要以上に職場に知られることには抵抗があります。」

このような要望は非常にセンシティブで、企業としてどのように対応すべきか悩むところです。
山田さんはこの件を当事務所に相談し、従業員のプライバシー保護を最優先にしつつ、職場の安全衛生管理をどう両立させるかについて助言を求めてきたのです。

法的な基盤と健康情報の取り扱い

まず、企業が健康診断の結果をどのように扱うべきか、法律の観点から確認しておきましょう。

  • 労働安全衛生法: 企業は、従業員の健康状態を把握し、職場の安全衛生管理を行う義務があります。健康診断の実施や結果の管理はこの義務の一部です。
  • 個人情報保護法: 健康診断結果は「要配慮個人情報」に該当し、特に慎重に取り扱わなければなりません。従業員の同意なしに第三者に提供することは禁止されています。

さらに、厚生労働省が公表した「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い指針」では、企業が従業員の健康情報をどう管理し、どのように利用するべきかが明確に定められています。この指針に基づき、企業は健康情報の管理体制を整え、従業員にその取り扱い方針を周知する必要があります。

要配慮個人情報とは?

要配慮個人情報は、従業員が不利益を被ることがないように特に配慮が必要な情報を指します。
例えば、健康診断の結果や病歴など、差別や偏見の原因となる可能性がある情報がこれに該当します。したがって、健康診断結果の取り扱いには、事業者として最大限の注意が求められます。

健康情報の取り扱いに関する規程の作成

事業者が適切に健康情報を管理するためには、まず「健康情報の取り扱い規程」を作成することが重要です。
この規程は、企業内でどのように健康情報を取得し、利用し、保管するかを明確に定めたもので、従業員のプライバシーを守りながら安全衛生管理を行うための指針となります。

厚労省 事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き

規程作成時に考慮すべきポイント

  1. 取得・利用目的の明確化
    健康情報の取得目的を明確にし、それを従業員に伝えることが重要です。例えば、職場の安全衛生管理や健康リスクの把握を目的とする場合、その目的が逸脱しないよう情報の使用範囲を限定します。

  2. 情報の管理者とアクセス範囲の特定
    健康情報にアクセスできる職員を限定し、アクセスログを適切に管理します。一般的には、産業医や衛生推進者が情報管理者となりますが、人事部門の担当者など、業務上必要な範囲に限定されるべきです。

  3. 情報の保存期間と廃棄方法の明確化
    健康情報は不要になった場合、適切に廃棄する必要があります。情報漏洩のリスクを最小限にするため、保存期間を明確にし、過去のデータを管理し続けないことが重要です。

  4. 従業員への周知と同意の取得
    健康情報の取り扱いに関する規程を作成した後は、全従業員に対してその内容を説明し、理解を得る必要があります。同時に、健康診断結果の取り扱いに関する同意書を取得することで、従業員の安心感を高めることができます。

健康情報の取り扱いにおける具体的な対応策

それでは、具体的にどのような対応策を取るべきかについて、さらに詳しく見ていきましょう。従業員の健康情報を取り扱う際に企業が実施すべき基本的なステップをまとめました。

1. 健康診断結果の個別管理

従業員一人ひとりの健康診断結果は、特定の担当者のみがアクセスできるシステムで管理します。紙で保管している場合も同様に、鍵付きのキャビネットに保管し、担当者以外が容易にアクセスできないようにすることが必要です。これにより、情報漏洩のリスクを最小限に抑えます。

2. 同意なしでの情報共有を避ける

従業員が同意していない限り、健康診断の結果を衛生推進者やその他の担当者に知らせることは避けるべきです。同意を得るためには、事前に従業員へ十分な説明を行い、同意書を取得することが必要です。これにより、従業員は自身の健康情報がどのように扱われるかを理解した上で、安心して情報を提供できます。

3. 情報開示の最小化

開示する情報は最小限に留めるべきです。特に、個人を特定できない形でのデータ共有や、部署ごとの統計情報の報告など、従業員個々の健康状態が明確にならないよう工夫が必要です。これにより、職場の健康リスクの管理を行いながら、プライバシーの保護も同時に実現できます。

4. 定期的な規程の見直しと教育

規程を一度策定したら終わりではなく、定期的に見直すことが重要です。法令が改正されたり、社内体制が変わったりすることで、健康情報の取り扱い方法も見直しが必要になることがあります。また、規程の内容を従業員に繰り返し説明し、常に最新の方針に従って情報を管理するよう徹底することが求められます。

5. 産業医や衛生推進者との連携強化

産業医や衛生推進者との適切な連携が、従業員の健康情報を効果的に活用するためには欠かせません。彼らの専門知識を活かしつつ、従業員のプライバシー保護と健康管理を両立させるために、情報の共有方法や管理方法について定期的に話し合いを行い、より良い管理体制を構築します。

健康情報管理の事例:「ひだまり苑」の取り組み

「ひだまり苑」では、健康診断結果の取り扱いに関する従業員からの要望に応える形で、次のような取り組みを実施しました。

  1. 同意書の取得と説明会の実施
    健康診断の結果をどのように取り扱うか、従業員に丁寧に説明し、同意を得る場を設けました。これにより、従業員は自身の健康情報がどのように使われるのかを理解し、安心して結果を提供できるようになりました。

  2. 匿名化による情報管理の工夫
    従業員個々の診断結果を報告するのではなく、匿名化した形で統計情報として衛生推進者に報告しました。これにより、従業員のプライバシーが守られ、同時に職場全体の健康状態の傾向を把握することが可能となりました。

  3. 情報管理体制の強化
    規程を策定し、健康情報へのアクセス権を厳格に制限しました。また、定期的な監査を行い、適切に運用されているかを確認する体制を整えました。

これらの取り組みにより、「ひだまり苑」は健康情報の管理が徹底されました。
従業員が自分の健康情報が適切に扱われると確信できることで、診断結果を活用した職場の健康対策が進みやすくなり、全体として労働環境は改善されたように思います。

事務所としての見解

シム社会保険労務士事務所は、企業が従業員の健康情報を適切に管理することが、従業員との信頼関係の構築に不可欠であり、ひいては企業の健全な運営にも直結すると考えています。
特に、医療施設、介護施設や中小企業においては、従業員の健康管理が事業の持続可能性に大きく影響を与えるため、健康情報の取り扱いは慎重に行わなければなりません。

「健康情報の取り扱い規程」の策定は、企業は法令を遵守しつつ、従業員に対して透明性のある管理体制を提供できるのではないでしょうか。この取り組みが、職場の安全衛生管理の質を高め、従業員の安心感を向上させることにつながると考えます。

当事務所では、企業の状況に合わせた健康情報の取り扱い規程の策定支援や、具体的な運用方法についての指導を行っています。これにより、クライアント企業が従業員との信頼関係を強化し、健全な職場環境を維持できるようサポートしています。

【参考資料】事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き

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