企業が考えるべき育児・介護支援の次なる課題と解決策|次世代育成支援対策推進法の改正に関する省令事項(案)および指針事項(案)から(1)
2024年9月13日、第71回労働政策審議会雇用環境・均等分科会が開催されました。
この中の議題の一つとして、次世代育成支援対策推進法の改正に関する省令事項(案)および指針事項(案)が示されました。この改正は、特に育児・介護の両立をサポートし、働きやすい環境を提供することを目指しており、中小企業や福祉事業所にとっても重要な施策です。
このコラムでは、この省令(案)を踏まえて、これがどのような影響を与え、中小企業や福祉事業所がどのように対応すべきかを詳しく解説します。
【参考資料】資料3-1 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な省令事項
【参考資料】資料3-2 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な指針事項
1. 一般事業主行動計画の見直し:より実効性のある計画づくりへ
何が変わるのか?
改正法では、一般事業主行動計画の策定・変更時に、以下の2点を重視することが求められます。
- 男性労働者の育児休業取得率の把握
- 労働者の労働時間(時間外労働や休日労働)の状況分析
なぜこの変更が必要なのか?
これまで、多くの企業で「計画を立てたものの、実態が伴っていない」という課題がありました。今回の改正は、より実態に即した、実行可能な計画づくりを促すものです。
中小企業・福祉事業所の皆様へ
- 男性の育休取得状況の可視化:
- 取得率だけでなく、取得期間や取得のタイミングなども記録しましょう。
- 「取得しやすかった点」「阻害要因」などのヒアリングも有効です。
- 労働時間の適切な管理:
- 月ごとの労働時間を部署別、職種別に分析しましょう。
- 繁忙期と閑散期の差が大きい場合は、業務の平準化を検討しましょう。
これらの取り組みは、単なる法令遵守以上の価値があります。従業員の満足度向上や人材確保にもつながり、長期的な経営戦略としても重要です。
2. 認定制度の見直し:ハードルは上がるが、メリットも大きく
認定基準はどう変わるのか?
認定の種類 | 現行基準 | 新基準 |
---|---|---|
トライくるみん | 7%以上 | 10%以上 |
くるみん | 10%以上 | 30%以上 |
プラチナくるみん | 30%以上 | 50%以上 |
一見すると「厳しくなった」と感じるかもしれません。しかし、この変更には重要な意味があります。
なぜ基準が引き上げられたのか?
- 社会全体の意識向上:男性の育児参加への期待が高まっています。
- 先進企業の牽引:高い基準を達成している企業が増えてきました。
- 「真の両立支援」の実現:形式的な取得ではなく、実質的な育児参加を促します。
中小企業・福祉事業所の皆様へのアドバイス
- 特例措置の活用: 中小企業向けに、計画期間とその前の一定期間を合わせて計算できる特例があります。これにより、柔軟な対応が可能です。
- 段階的な目標設定: いきなり高い基準を目指すのではなく、まずは「トライくるみん」からスタートし、徐々にレベルアップを図るのも一案です。
- 認定取得のメリット再確認:
- 人材採用時のアピールポイントになります。
- 企業イメージの向上につながります。
- 公共調達において加点評価される可能性があります。
認定取得は、単なる「お墨付き」以上の価値があります。従業員の満足度向上、優秀な人材の確保、さらには業績向上にもつながる可能性を秘めています。
3. 両立支援制度の強化:柔軟な働き方がカギ
何が求められているのか?
改正法では、以下の点が強調されています。
- 育児休業取得の促進(特に男性)
- 短時間勤務制度の充実
- 在宅勤務など柔軟な働き方の推進
なぜこれらが重要なのか?
- 少子高齢化対策:子育てしやすい環境づくりは、社会全体の課題です。
- 人材確保・定着:働きやすい職場は、優秀な人材を引き付けます。
- 生産性向上:柔軟な働き方は、意外にも生産性向上につながることが多いのです。
今後、目指すべき方向性
- 制度の見直しと周知:
- 既存の制度を棚卸しし、利用しやすくなっているか確認しましょう。
- 制度の存在を知らない従業員がいないよう、定期的な周知を行いましょう。
- 管理職の意識改革:
- 管理職向けの研修を実施し、両立支援の重要性を理解してもらいましょう。
- 「育休取得=評価減」といった誤った認識を払拭することが重要です。
- 業務の棚卸しと再分配:
- 育休取得者の業務を誰がカバーするか、事前に計画を立てましょう。
- この機会に業務の無駄を省き、効率化を図ることも検討しましょう。
両立支援は「コスト」ではなく「投資」です。従業員の幸せは、顧客満足度の向上や業績アップにもつながります。
4. PDCAサイクルの確立:継続的な改善が成功の鍵
なぜPDCAサイクルが重要なのか?
- 実効性の担保:計画を立てただけでは意味がありません。実行し、評価し、改善することで初めて意味を持ちます。
- 環境変化への対応:働き方のニーズは常に変化しています。定期的な見直しが欠かせません。
- 従業員の声の反映:現場の声を聞き、計画に反映させることで、より実態に即した取り組みが可能になります。
中小企業・福祉事業所の皆様へのアドバイス
- 定期的な振り返りの機会を設ける:
- 四半期ごとなど、定期的なチェックポイントを設定しましょう。
- 可能であれば、外部の専門家(社労士など)の視点も取り入れると良いでしょう。
- 数値だけでなく、質的な評価も:
- 育休取得率などの数値だけでなく、従業員の満足度調査なども行いましょう。
- 退職理由の分析なども、重要な指標となります。
- 好事例の共有:
- 成功事例があれば、社内で積極的に共有しましょう。
- 他社の好事例を研究するのも有効です。
PDCAサイクルは、単なる「やりっぱなし」を防ぎ、継続的な改善を可能にします。これは、人材マネジメントの質を高め、ひいては経営の質の向上にもつながります。
今回の法改正は、一見すると「また新たな負担が…」と感じられるかもしれません。しかし、これを「働きやすい職場づくり」の絶好のチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。
中小企業や福祉事業所には、大企業にはない「機動力」があります。トップの決断一つで、すぐに新しい取り組みを始められるのです。
一足飛びに完璧を目指す必要はありません。できることから、一つずつ着実に進めていくことが大切です。その積み重ねが、結果として大きな変化をもたらします。
5.中小企業・福祉事業所が直面する課題と解決策
次世代育成支援対策推進法の改正は、中小企業や福祉事業所にとって大きな挑戦となる一方で、新たな可能性を開く機会でもあります。ここでは、中小企業によくある課題とその解決策について詳しく見ていきましょう。
課題1:人手不足での両立支援
多くの中小企業では、慢性的な人手不足に悩まされています。そんな中で、育児休業の取得を促進するのは難しいと感じるかもしれません。
解決策:
- 多能工化の推進: 従業員が複数の業務をこなせるようにトレーニングすることで、誰かが休んでも対応できる体制を作ります。
- 業務の棚卸しと効率化: 本当に必要な業務は何か、見直しの機会にしましょう。無駄な作業の削減で、少ない人数でも回る体制が作れます。
- シニア人材や主婦層の活用: 短時間勤務や柔軟な勤務形態を提供することで、新たな人材プールにアクセスできます。
課題2:育児休業中の人事評価
育児休業を取得すると評価が下がる、という懸念から、特に男性社員が取得を躊躇するケースがあります。
解決策:
- 評価制度の見直し: 育児休業取得者に不利にならない評価システムを構築します。例えば、休業前の実績を考慮したり、復帰後の頑張りを重視するなどの工夫が考えられます。
- キャリアパスの明確化: 育休後のキャリアプランを明示することで、従業員の不安を軽減できます。
- ロールモデルの創出: 経営層や管理職が率先して育休を取得し、その経験を共有することで、組織全体の意識改革につながります。
課題3:介護と育児の同時進行
昨今の中小企業では、従業員自身も介護に直面するケースが増えています。育児と介護の両立支援が求められる時代です。
解決策:
- 柔軟な勤務体系の導入: 時差出勤、短時間勤務、在宅勤務など、多様な働き方を用意することで、個々の事情に対応できます。
- 「介護休暇」と「育児休業」の併用促進: 法定の制度を最大限活用できるよう、従業員に情報提供と取得促進を行います。
- 社内サポート体制の構築: 同じような経験をした先輩社員をメンターとして配置するなど、精神的なサポート体制も重要です。
課題4:社内の理解促進
「なぜ彼/彼女だけが特別扱いされるのか」という不満の声が上がることもあります。
解決策:
- 全社的な研修の実施: 両立支援の重要性や、それが会社全体にもたらすメリットについて、定期的に研修を行います。
- 公平性の担保: 育児中の従業員だけでなく、全ての従業員にとって働きやすい環境を整備することが重要です。例えば、趣味や自己啓発の時間を確保するための施策なども検討しましょう。
- 成功事例の共有: 両立支援によって生産性が上がった、新しいアイデアが生まれたなどの具体例を社内で共有します。
6. 福祉事業所特有の課題と対策
介護・福祉業界は、他の業種以上に人材確保が困難な状況にあります。そのため、両立支援策の導入は、単なる法令遵守以上の意味を持ちます。
業界特有の課題:
- 24時間365日のサービス提供: シフト制の中で、いかに公平に育児休業を取得させるか。
- 感情労働によるストレス: 介護・福祉の現場特有のストレスと、家庭での育児の両立。
- 慢性的な人手不足: そもそも代替要員の確保が難しい。
対策案:
- 長期的な視点でのシフト設計:
- 年間を通じての育休取得計画を立て、シフトに組み込む。
- AIを活用した効率的なシフト管理システムの導入。
- メンタルヘルスケアの強化:
- 定期的なカウンセリングの実施。
- ストレス解消法や時間管理術の研修提供。
- 多様な働き方の導入:
- 短時間正社員制度の導入。
- 在宅でできる業務(記録作成など)の洗い出しと、テレワークの部分的導入。
- 地域ネットワークの活用:
- 近隣の福祉事業所と連携し、一時的な人材融通の仕組みづくり。
- 退職したOB・OGを登録制のスポット勤務者として活用。
終わりに:変化を恐れず、一歩ずつ前へ
ここまで、次世代育成支援対策推進法の改正に関連する様々な課題と解決策を見てきました。一見すると「大変だ」と思われるかもしれません。しかし、これらの取り組みは、決して「法令遵守のため」だけのものではありません。
むしろ、これを「選ばれる企業になるチャンス」と捉えてみてはいかがでしょうか。
働き方改革や両立支援に積極的な企業は、以下のようなメリットを享受できます:
- 優秀な人材の確保・定着: 働きやすい環境は、良い人材を引き付け、長く活躍してもらうための武器になります。
- 生産性の向上: 従業員が安心して働ける環境は、モチベーションと生産性の向上につながります。
- 企業イメージの向上: 「従業員を大切にする会社」という評判は、顧客や取引先からの信頼にもつながります。
- イノベーションの促進: 多様な働き方を認めることで、新しい視点や柔軟な発想が生まれやすくなります。
確かに、一朝一夕には実現できないかもしれません。しかし、小さな一歩から始めることはできます。その一歩の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらすのです。
当事務所は、顧問先企業様のその一歩を全力でサポートいたします。法改正への対応はもちろん、人事制度の見直しや従業員満足度の向上など、幅広くご相談に応じております。
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【参考資料】資料3-1 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な省令事項
【参考資料】資料3-2 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な指針事項