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介護施設・中小企業向け| 短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集解説-令和6年10月施行 (3)

令和6年9月5日、健康保険組合宛に厚生労働省保険局保険課から事務連絡として最新版の「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集」(その3)が発表されました。

前回は、特定適用事業所の手続きや、労働時間の算出方法について解説しました。今回は、さらに踏み込んで「所定内賃金」や「短時間正社員」、そして「複数事業所で働く労働者」の取り扱いについて詳しく見ていきます。これらのポイントは、特に給与計算や保険の適用を正しく行う上で欠かせない部分です。介護施設や中小企業の経営者にとって、労務管理の実務に直結する重要な内容ですので、ぜひご確認ください。

Q34. 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間が週20時間未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が週20時間以上となった場合は、どのように取り扱うのか。また、施行日前から当該状態であった場合は、施行日から被保険者資格を取得するのか。
A34.
所定労働時間が週20時間未満であっても、実際の労働時間が恒常的に週20時間以上であれば、被保険者資格を取得します。施行日前からこの状態が続いている場合は、施行日から被保険者資格を取得することとなります。

このケースは非常に現実的です。例えば、介護施設でパートタイム勤務の職員が、忙しい時期に臨時でシフトに入ることが増え、結果として恒常的に週20時間以上働くようになった場合、雇用契約上は「短時間労働者」であっても、実態に基づいて被保険者資格が発生することになります。労働時間を定期的に見直し、適切な対応を取ることが求められます。


Q35. 「学生でないこと」について、学生とはどのような者を指すのか。通信制課程に在学する者は対象となるのか。
A35.
学生とは、主に昼間の課程に在学している者を指します。通信制課程に在学する者は、被保険者資格を取得する対象となります。

介護業界や中小企業で、学生をアルバイトとして雇用することも多いですが、ここで重要なのは、昼間の課程に在学している「学生」であれば、健康保険や厚生年金の適用外になるという点です。しかし、通信制の大学や専門学校に通う学生であれば、社会保険の適用対象になります。事業所としては、雇用時に学生の在学状況を正確に確認し、適切な対応を取る必要があります。


Q36. 学生については、4分の3基準に該当していても、学生という理由のみをもって健康保険・厚生年金保険の被保険者とならないのか。
A36.
学生については、4分の3基準に該当していても、学生という理由のみで健康保険・厚生年金保険の被保険者とはなりません。

たとえ労働時間が長く、賃金が高くても、「学生」であれば社会保険の適用外です。しかし、先ほどの通信制学生は例外となりますので、こちらも確認が重要です。例えば、週に30時間以上働く学生でも、社会保険に加入する必要はないことを理解しておきましょう。


Q37. 短時間労働者の厚生年金保険・健康保険の適用については、所定内賃金が月額8.8万円以上であるほかに、年収が106万円以上であるかないかも勘案するのか。
A37.
短時間労働者の厚生年金保険・健康保険の適用については、年収106万円以上であるかどうかは勘案しません。所定内賃金が月額8.8万円以上かどうかで判断します。

介護施設や中小企業では、年収106万円を超えるかどうかという問題に直面することが多いですが、保険の適用においてはあくまで「月額賃金」が基準です。例えば、月額が8.8万円を超えれば、年収が106万円以下であっても社会保険の対象となります。


Q38. 健康保険の被扶養者として認定されるための要件の一つに、年収が130万円未満であることという収入要件があるが、この要件に変更があるのか。
A38.
健康保険の被扶養者として認定されるための年収要件(130万円未満)に変更はありません。

被扶養者に関しては、年収130万円未満であることが基準となります。この基準には変更がないため、例えば家族がパートタイムで働いている場合、その年収が130万円を超えないようにすることで、引き続き被扶養者として健康保険を利用することが可能です。


Q39. 所定内賃金が月額8.8万円以上かの算定対象となる賃金には、どのようなものが含まれるのか。
A39.
所定内賃金には、基本給や各種手当(通勤手当、住宅手当、役職手当など)が含まれますが、時間外手当や賞与、臨時的に支払われる手当は含まれません。

たとえば、介護施設で働く短時間労働者の場合、基本給に加えて住宅手当や通勤手当が支給されているかもしれません。これらが月額8.8万円を超えるかどうかを基準に、社会保険の適用を判断することになります。臨時の手当や賞与はこの計算には含まれませんので、賃金の内訳をしっかり確認することが重要です。


Q40. 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間が週20時間以上で、かつ所定内賃金が月額8.8万円未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が増加し、賃金が月額8.8万円以上となった場合は、どのように取り扱うのか。
A40.
所定内賃金が恒常的に月額8.8万円以上となった場合、被保険者資格を取得します。

たとえば、介護施設の職員が業務の増加によりシフトに多く入るようになり、結果的に月額賃金が8.8万円を超える場合には、社会保険の対象となります。臨時的な増加ではなく、恒常的に賃金が8.8万円以上となるかどうかがポイントです。


まとめ

今回のコラムでは、所定内賃金、短時間正社員、学生労働者に対する社会保険の適用に焦点を当てて解説しました。これらの取り扱いは、単純に賃金や労働時間に基づく計算だけではなく、各労働者の働き方や契約条件に応じた柔軟な対応が求められます。介護施設や中小企業においては、短時間労働者が占める割合が大きく、制度の理解と適切な対応が経営の安定に不可欠です。

特に、短時間正社員や学生労働者は、労働条件の変動が発生しやすいことから、事前の計画と日常の労務管理が重要です。例えば、業務の都合で労働時間や賃金が変更された際、迅速に適用範囲を見直し、必要な手続きを行うことがトラブル回避のカギとなります。これを怠ると、事後的に大きな修正が必要となるだけでなく、企業全体の信頼を損なうリスクも伴います。従業員にとっても、正確な社会保険の適用は安心して働ける環境づくりの基盤です。

また、社会保険の適用を進めることで、従業員に対する福利厚生が充実し、結果として職場全体のモチベーション向上や定着率の改善にもつながります。短時間労働者に対しても、他の正社員と同様に社会保険を適用することは、経営者が従業員の将来を見据えた制度設計を行っているという信頼感を醸成する効果も期待できます。

労働者の働き方が多様化する中で、複数の事業所にまたがって働く従業員への対応は、特に経営者にとって頭を悩ませるポイントの一つです。次回では、そうした実務の複雑さを解消するための具体的な対応方法を詳しく解説し、実務管理の負担を軽減するためのヒントをお伝えできればと思っています。

次回も引き続き、今後の事業運営に役立つ実践的な情報を提供してまいりますので、どうぞお見逃しなく。

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)

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