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介護施設・中小企業向け| 短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集解説-令和6年10月施行 (1)

令和6年10月1日、短時間労働者への社会保険適用がさらに拡大します

これまで従業員数が101人以上の企業に限られていた社会保険の適用範囲が、今回の改正により、従業員数51人以上の企業にも拡大されることとなりました。これにより、パートやアルバイトといった短時間労働者にも社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入が求められるため、多くの中小企業や福祉事業所に影響が及ぶことは間違いありません。

例えば、週20時間以上働く短時間労働者は、特定の要件を満たすことで社会保険の被保険者となります。この適用拡大に伴い、企業側は適切な手続きや対応が求められるようになりますが、どのように進めるべきかが具体的にわからないこともあるでしょう。

そこで今回のコラムでは、厚生労働省が発表した令和6年9月5日に厚生労働省が発表した最新のQ&A集に基づき、企業が押さえておくべき基本的なポイントを解説していきます。

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)


Q3. 最初の雇用期間が2か月以内である場合は、当該期間を超えて使用されることが見込まれることとして取り扱われることはないのか。
A3.
たとえ最初の雇用契約が2か月以内であったとしても、場合によってはその雇用期間を超えて使用されることが見込まれるとして、社会保険の適用対象になる可能性があります。

以下の条件に該当する場合は、2か月を超えて雇用が継続されると見なされます。
・雇用契約書や就業規則に「契約の更新がある」ことが明記されている場合。
・同じ事業所で、過去に同様の短期雇用者が契約更新された実績がある場合。

つまり、繁忙期の臨時雇用者であっても、契約が延長されることが予想される場合には、社会保険に加入することが求められる可能性があります。
例えば、繁忙期に合わせて2か月限定でアルバイトを雇ったとしても、その後契約が延長され、3か月、4か月と続く場合、その労働者は被保険者資格を取得することになります。

これにより、企業側は従業員が被保険者に該当するかどうかを常に確認し、契約が更新される際には保険手続きを怠らないようにする必要があります。


Q4. 4分の3基準を満たさない短時間労働者は、4要件のうちいずれか1つの要件を満たせば被保険者資格を取得するのか。
A4.
4分の3基準を満たさない短時間労働者であっても、以下の4つの要件をすべて満たす場合には、健康保険や厚生年金保険の被保険者資格を取得することになります。
1.1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
2.月額賃金が8.8万円以上であること。
3.学生でないこと。
4.特定適用事業所に勤務していること(従業員数50人以上の事業所)。

つまり、介護施設や中小企業においても、パートタイム労働者であってもこの要件をすべて満たす場合には、社会保険の適用を受ける必要があるということです。
特に、賃金要件や労働時間要件を満たしているかどうかを確認するために、雇用契約や勤務記録を定期的にチェックすることが、事業主にとっては非常に重要になります。短時間労働者の雇用が多い介護施設や福祉事業所では、適切な基準で管理を行う必要があります。


Q6. 被保険者資格を取得する短時間労働者の対象範囲はどうなるのか。
A6.
被保険者資格を取得する短時間労働者の範囲は、主に従業員51人以上の事業所で働く労働者が対象です。従業員数が50人以下の事業所は対象外となります。

令和6年10月以降、従業員数51人以上の企業も社会保険の適用対象となるため、これまで社会保険の手続きに馴染みのなかった事業所にとっても、適切な手続きと管理が必要です。これに伴い、労働者の雇用形態に応じた社会保険の適用範囲を見直し、適時対応することが求められます。


Q7. 使用される被保険者の総数が常時50人を超えるか否かの判定は、適用事業所ごとに行うのか。
A7.
使用される被保険者の総数が常時50人を超えるか否かの判定は企業ごとに行いますが、具体的には以下のいずれかの考え方で判定します。
① 法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時50人を超えるか否かによって判定します。
② 個人事業所の場合は、適用事業所ごとに使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時50人を超えるか否かによって判定します。

介護施設や中小企業がこれに該当する場合、適用事業所がどの範囲に及ぶのかをしっかりと把握し、適切な届出を行う必要があります。


Q8. 「被保険者の総数が常時50人を超える」において、被保険者はどのような者を指すのか。適用拡大の対象となる短時間労働者や70歳以上で健康保険のみ加入している被保険者は対象に含めるのか。
A8.
特定適用事業所に該当するか判断する際の被保険者とは、適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数を指します。適用拡大の対象となる短時間労働者や、70歳以上で健康保険のみに加入している者は対象に含めません。

例えば、介護施設でフルタイムの従業員が30人、週20時間以上働く短時間労働者が15人、さらに70歳以上の従業員が10人いる場合、この介護施設が「常時50人以上の被保険者」を満たしているかどうかを判断する際に、厚生年金に加入しているフルタイムの従業員30人のみがカウントされます。短時間労働者や70歳以上で健康保険のみ加入している従業員は、このカウントには含まれないため、結果的にこの事業所はまだ「50人以上」の基準を満たしていないことになります。
この基準を正確に理解し、被保険者の数を確認することが重要です。


Q9. 「被保険者の総数が常時50人を超える」とは、どのような状態を指すのか。どの時点で常時50人を超えると判断することになるのか。
A9.
「被保険者の総数が常時50人を超える」とは、法人事業所では同一の法人番号を有するすべての適用事業所における厚生年金保険の被保険者の総数が、12か月のうち6か月以上50人を超えることが見込まれる場合を指します。個人事業所では、適用事業所ごとに被保険者数が同じ条件を満たす場合を指します。

たとえば、法人である福祉施設Aの従業員が毎月50人を超えることが予想される場合、過去12か月のうち6か月以上50人を超えることが確認された時点で、この施設は特定適用事業所としてカウントされます。この場合、すべての従業員を合計した人数が基準になります。

一方、個人事業所である場合には、各事業所ごとに被保険者数がカウントされるため、複数の小規模事業所を持つ個人事業主は、事業所ごとの従業員数を管理する必要があります。

事業主は、被保険者数が「6か月以上50人を超える」時点を見逃さないよう、定期的な確認と報告が重要です。この基準を満たした場合には、適用事業所としての手続きが必要になります。


Q10. 特定適用事業所に該当した適用事業所は、どのような手続きが必要になってくるか。
A10.
特定適用事業所に該当した場合、法人事業所では本店や主要な事業所が代表して、事務センターに特定適用事業所該当届を届け出ます。個人事業所の場合、各事業所ごとに該当届を提出します。また、適用拡大に伴い新たに被保険者資格を取得する短時間労働者がいる場合は、被保険者資格取得届も提出する必要があります。

例えば、法人事業所である介護施設Aが特定適用事業所に該当した場合、施設Aの本店が代表して、法人全体をカバーする形で該当届を事務センターに提出します。

一方、個人事業所で複数の小規模施設を持つ場合、それぞれの施設ごとに該当届を提出しなければなりません。

さらに、今回の適用拡大に伴って、従業員が新たに被保険者資格を取得する場合には、その従業員に対する被保険者資格取得届も併せて提出する必要があります。

 

まとめ

このように、短時間労働者や特定適用事業所に関連する社会保険の適用拡大は、介護施設や中小企業の事業運営にとって極めて重要な変化をもたらします。特に、従業員の労働条件や契約形態に対する理解を深め、法に基づいた手続きを確実に行うことが、経営者に求められる義務です。適切な対応を怠ることで、事務処理の負担が増すだけでなく、リスクを抱えることにもなりかねません。従業員一人ひとりの状況を細かく把握し、これをきちんと管理することが、安定した事業運営の基盤を築く上で不可欠です。

とはいえ、この変化は単なる事務手続きの増加にとどまるものではありません。短時間労働者が増え続ける現代において、社会保険適用拡大は、労働者にとっても、経営者にとっても、より公平で持続可能な働き方を実現するための一歩とも言えます。特に介護施設のように、短時間労働者が重要な役割を果たす業界においては、適切な社会保険の適用が、従業員の満足度や職場の安定性にも影響を与えるでしょう。

次回のコラムでは、この社会保険適用拡大に関連する「特定適用事業所」に焦点を当て、実際の手続きや届出の詳細、さらに労働時間の算出方法に至るまで、具体的な実務対応を掘り下げていきます。ここで理解しておくべきポイントは、ただ単にルールを遵守するだけでなく、事業全体の効率性を高め、長期的な成長を支えるための基盤として、この制度をどう活用できるかという視点です。

社会保険の適用拡大を負担として捉えるのではなく、事業の成長を支える「チャンス」として捉えることが、これからの経営者に求められる新しい視点です。次回は、これらの手続きや労働時間の計算に関する実務的なステップを詳しく見ていきます。

 

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)

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