令和7年4月1日施行の雇用保険制度改正とは?中小企業と介護福祉事業所への影響を解説(3)
2025年4月1日から施行される「令和6年雇用保険制度改正」には、多岐にわたる変更が盛り込まれていますが、特に注目すべきは育児休業関連の新たな制度や改正です。前回は「出生後休業支援給付」の創設について説明してきましたが、今回は「育児時短就業給付」、「育児休業給付」について掘り下げていきます。
企業にとって、これらの変更を正確に理解し、対応することは、従業員の働きやすさや企業全体の競争力を高めるために非常に重要です。
「育児時短就業給付」について
育児時短就業給付の現状と課題
現状と課題:
- 現在の制度では、育児のために短時間勤務を選択し、賃金が低下した労働者に対して支給される給付制度は存在していません。
- 「共働き・共育て」の推進や、育児休業後の労働者が育児とキャリアを両立できるよう、柔軟な働き方として短時間勤務制度を選択できるようにすることが求められています。
見直し内容:
- 2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている被保険者を対象とした「育児時短就業給付」を新たに創設する予定です。
- 給付率は、休業よりも時短勤務、時短勤務よりも従前の所定労働時間での勤務を推進する観点から、時短勤務中に支払われた賃金額の10%とする予定です。
財源:
- この給付の財源には「子ども・子育て支援金」が充当される予定です。
施行期日:
- 施行は2025年4月1日から予定されています。
育児休業給付について
育児休業中に出向(出向解除)となった場合の取扱いの見直しについて
現状:
- 被保険者が育児休業中に出向(または出向解除)となった場合、出向(出向解除)時点で一旦育児休業が終了し、出向(出向解除)後の事業所で育児休業を分割取得したものとして取り扱われています。
- その結果、以下のような状況では育児休業給付金が支給対象外となることがあります。
- 子が1歳までの間において、出向(出向解除)後の事業主の下での育児休業が3回目以降になる場合(例1、2)。
- 子が1歳に達した後に出向(出向解除)後の事業主の下で育児休業を取得する場合(例3、4)。
見直しの方向性(案):
- 出向については、必ずしも本人の希望により行われるものではないことから、出向(出向解除)により育児休業給付金が支給されなくなることがないように、省令を改正する予定です。具体的には、以下のような状況でも育児休業給付金が支給対象となるようにすることを検討しています。
- 子が1歳までの間において、出向(出向解除)後の事業主の下での育児休業が3回目以降になる場合。
- 子が1歳に達した後に、出向(出向解除)後の事業主の下で育児休業を取得する場合。
- 出向については、必ずしも本人の希望により行われるものではないことから、出向(出向解除)により育児休業給付金が支給されなくなることがないように、省令を改正する予定です。具体的には、以下のような状況でも育児休業給付金が支給対象となるようにすることを検討しています。
出生時育児休業給付金の支給早期化について
現状:
- 出生時育児休業給付金の支給申請期間は、「子の出生日(出産予定日前に出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日」から、「その日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日」までと定められています。
- さらに、出生時育児休業が終了した場合でも(例: ①28日間の出生時育児休業を取得し終えた場合や、②2回の出生時育児休業を取得し終えた場合)、支給申請は「子の出生日(出産予定日前に出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日」以後でなければ行うことができないとされています。
上記の支給申請期間や手続きに関しては、次の図を参照してください。
見直しの方向性(案):
- 28日間の出生時育児休業を取得した場合や、2回の出生時育児休業を取得し終えた場合には、その終了日の翌日以後に支給申請手続きを行えるよう、省令を改正する方向で話が進められています。
事務所としての見解
2025年4月1日から施行される「令和6年雇用保険制度改正」において、育児休業に関連する改正は、日本社会の育児支援のあり方を根本的に見直す契機となるでしょう。特に、育児時短就業給付の創設や支給対象範囲の拡大、支給限度額の算定方法の見直しなど、さまざまな施策が導入されることで、働く親が安心して育児と仕事を両立できる環境が整えられつつあります。
当事務所としては、これらの改正が企業や労働者に与える影響を慎重に分析し、労務相談顧問の顧問先の企業様が円滑にこれらの制度に適応できるように支援を行ってまいります。まず、育児時短就業給付の導入により、育児休業を取得した従業員がより柔軟な働き方を選択できるようになります。企業にとっては、従業員が育児に専念しつつ、職場に復帰しやすい環境を整えることが、長期的な人材確保と企業成長に寄与すると考えます。
さらに、育児休業の支給申請手続きの見直しにより、従業員の負担が軽減されるだけでなく、企業の管理コストも削減されるでしょう。これにより、より効率的な業務運営が可能となり、労働者が仕事と育児のバランスを取りやすくなります。企業は、これを機に育児支援のための社内制度を見直し、働きやすい職場環境の構築に取り組むべきです。
今回の改正は、育児支援の枠組みを一層強化するものであり、企業と従業員の双方にとって大きなメリットをもたらします。当事務所は、これまで培ってきた知識と経験を基に、顧問先企業がこの制度を最大限に活用し、持続可能な成長を遂げられるよう全力でサポートいたします。これからも社会の変化に柔軟に対応し、顧問先企業と共に成長していくことを目指します。
最後に、このコラムシリーズを通じて、読者の皆様が育児休業制度に対する理解を深め、企業運営に役立つ新たな視点を得ていただけたことを願っています。育児と仕事の両立は、企業の持続可能な発展において非常に重要なテーマです。当事務所は、これからも企業と従業員の双方にとって価値のある情報を提供し、より良い職場環境の構築を支援してまいります。社会全体が働きやすい環境を築くために、皆様と共に歩んでいくことを心から願っております。
【参考リンク】第197回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会
【参考資料】令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)