生協の訪問介護事業が報酬改定で赤字に|訪問介護事業の報酬改定による赤字の原因と収益改善の方向性
全国コープ福祉事業連帯機構が7月29日に発表した調査結果によれば、2024年度介護報酬改定の影響で、訪問介護事業が大きな収益悪化に見舞われています。同機構が実施した緊急アンケート調査によると、14法人・127事業所の加盟団体が参加し、2024年4〜5月の訪問介護事業の事業損益は前年同期の3119万円の黒字から、955万円の赤字に転じたとのことです。これは、介護報酬改定による基本報酬の約2%引き下げが主な要因であり、収益環境が急速に悪化したことを示しています。
調査結果では、訪問介護事業の収入が前年同期比で1%減少し、12億9431万円となっています。特に、ヘルパーの人数は前年に比べ7%減少しており、人材確保が非常に難しくなっている現状が浮き彫りになっています。この結果、サービス提供回数の減少が収益に直結している状況です。さらに、ヘルパーの高齢化も深刻な問題として挙げられ、「5年後の事業を見通すことが困難」といった不安の声が多く寄せられています。
このような背景から、訪問介護事業所では、生活援助から身体介護へとサービス内容を変更し、報酬単価を引き上げることで収益改善を目指しています。しかし、東京商工リサーチのデータによれば、2024年1〜6月の介護事業者の倒産件数は前年同期比で1.5倍の81件に達しており、その多くが訪問介護事業者であることが報告されています。このように、訪問介護事業者が直面している経営環境は厳しさを増しています。
事務所としての見解
今回の報告は、介護報酬改定が訪問介護事業者に及ぼす影響の大きさを強く物語っています。基本報酬の引き下げは、事業収益に直接的な打撃を与えるとともに、サービス提供者としての人材確保をさらに困難にする要因となっています。これに伴い、事業者は生産性を向上させ、コストを削減しつつも、質の高い介護サービスを維持するという非常に難しい課題に直面しています。
まず、訪問介護事業者が考慮すべき戦略として、業務の効率化とICTの導入が挙げられます。ICTの活用は、事務作業の自動化やヘルパーの業務管理を効率化するだけでなく、限られたリソースで最大限のサービス提供を実現する手段となり得ます。特に、ヘルパーのスケジューリングや移動時間の削減においては、ICTの導入が収益向上に寄与する可能性が高いです。
次に、報酬加算の積極的な活用が重要です。例えば、処遇改善加算や特定事業所加算の適切な活用によって、基本報酬の引き下げによる収益減を補うことができます。これらの加算制度をフル活用するためには、適切な運用と従業員のスキルアップが求められます。
さらに、人材の育成と定着がますます重要になります。ヘルパーの高齢化が進む中で、若手人材の確保と育成に力を入れることが急務です。例えば、社内研修やキャリアパスの明確化により、従業員のモチベーション向上を図ることができます。また、職場環境の改善や福利厚生の充実を通じて、定着率の向上を目指すことが必要です。
また、サービス提供の多様化・複合化も検討すべきです。訪問介護のみならず、通所介護や短期入所施設との連携を深め、多機能型のサービス提供体制を構築することで、リスクを分散し、収益源を多様化することが可能です。
地域ネットワークの強化も欠かせません。地域の医療機関や他の福祉サービス事業者との連携を図ることで、効率的なケア提供体制を構築することができます。特に、医療と介護の連携は、今後さらに重要性を増していくと考えられます。
最終的には、介護報酬改定や人手不足といった外部環境に柔軟に対応しつつ、内部の運営体制を強化することが事業継続のカギとなります。当事務所は、労務管理の適切な実施や、法改正に伴う対応策についてアドバイスを行い、皆様の事業運営をサポートいたします。特に、訪問介護事業における労務管理の複雑さを理解し、適切な運用を支援するための取り組みを行っています。
訪問介護事業は、非常に困難な時期を迎えていますが、このような時こそ、適切な対策と戦略的な運営が求められます。当事務所は、顧問として労務相談顧問先の企業様の経営を支え、より良い未来への道筋を共に描いていけるよう尽力してまいります。