社会福祉法人、福祉事業所の宿直許可の必要性と申請手順
先日、私のクライアント先であるグループホームにおいて、宿直許可申請のため労働基準監督署からの実地調査があったので、その調査に同席させていただきました。
偶然にもその頃、日経新聞で、東京メトロが足立労基署から労働時間の是正と割増賃金の支払いについて是正勧告を受けたというニュースを目にしました。この出来事は、宿直勤務の重要性と法的要件について改めて考える機会となりました。
【参考】日経Web 2024.08.08 東京メトロ、労基署から是正勧告 未払い賃金最大86億円
宿直許可の必要性
社会福祉法人や福祉事業所、医療施設では、夜間の利用者・患者の安全を確保するために「宿直勤務」が必要とされることがあります。
この「宿直勤務」とは、いわゆる「夜勤業務」とは異なり通常の業務とは全く違った勤務を意味するものです。例えば、介護施設における介護士の通常の業務と言えば、利用者の排泄介助、移動介助といった介護業務ですが、「宿直勤務」とは、所定の勤務時間外における火災や盗難防止のための施設の巡回、緊急の電話収受、非常事態に備えた待機といったもので、通常の業務と比べて労働密度が低いものです。このような、宿直勤務がすべて労働時間として扱われると、施設運営に大きな負担がかかります。
そこで、労働基準法第41条と労働基準法施行規則第23条に基づき、宿直勤務が「断続的な労働」として認められる場合に限り、労働時間から除外されます。これにより、宿直許可を取得することが重要となります。
宿直許可の法的根拠
宿直許可は、労働基準法第41条に基づき、労働時間の適用除外を受けるために行われます。この許可は、労働基準法施行規則第23条に規定されており、使用者が宿直または日直の勤務で断続的な業務について、様式第10号によって労働基準監督署長の許可を受けることで、労働時間の規制が適用除外となります。
この、宿直許可を得ることで、宿直中の時間対が労働時間として扱われず、時間外、休日の割増賃金の支払いも不要となります。
宿直許可を申請する手順
- 宿直勤務実態報告書、宿直を行う職員の人数分の賃金台帳、宿直又は日直勤務手当最低額算定書などを準備します。 申請書類の準備: 宿直勤務に関するシフト表、業務マニュアル(何時から何時まで通常業務を行い、何時から何時までが軽易な宿直的業務を行い、何時から何時までが仮眠時間か分かるようなもの)、
- 労働基準監督署への提出:上記の書類に加えて、宿直室の写真、宿直を行う事業所の図面、 申請書(様式第10号)を作成し、所轄の労働基準監督署に提出します。
(電子申請でも可。管轄の労働基準監督署へ直接持参・郵送の場合、様式10号については2部必要)
- 実地調査: 労働基準監督署の担当官による実地調査が行われ、宿直業務が労働基準法に適合しているかが確認されます。調査はおよそ1時間程度で、実際に宿直を行っている宿直員のヒヤリング、巡回している場所の確認、宿直室の確認等が行われます。
- 許可の取得: 実地調査を経て、申請内容が適切と認められた場合、宿直許可が発行されます。
宿直許可の要件(社会福祉施設の場合)
- 宿直業務の性質: 宿直業務は、常態としてほとんど労働を要しないものである必要があります。具体的には、定時巡視や非常事態に備えての待機など、断続的な業務が対象です。
- 労働者の条件: 宿直に従事する労働者は、通常の勤務時間から完全に解放され、十分な睡眠を確保できる環境にあることが条件です。
- 宿直手当の支払い: 宿直手当は、当該事業所における同種の労働者の平均の賃金額の1/3以上であることが求められます。
- 宿直勤務の回数: 宿直勤務は、原則として週1回を限度としています。
- 宿直室の環境: 宿直については、寝具・暖房等相当の睡眠設備の設置が条件となります。
[昭和63年3月14日付基発第150号より]
宿直勤務中の緊急対応
宿直勤務中に「緊急対応」が発生した場合、その対応時間は労働時間としてカウントされ、別途時間外や深夜の割増賃金を支払う必要があります。宿直業務自体は緊急対応に備えての待機が許可対象であるため、実際に緊急対応が発生した場合には、その実態に応じた適切な対応が求められます。
許可取得後の対応
宿直許可を取得した後も、労働基準法に基づく適正な労務管理を続けることが重要です。許可された宿直中に通常の業務が発生した場合、その時間は労働時間として扱われ、割増賃金の支払いが必要となります。また、業務内容や人員配置に変更が生じた場合には、再度労働基準監督署に相談し、適切な対応を行う必要があります。
10号か14号か
なお、「通常勤務を行う者」が週1回を限度に「宿直」業務を行う場合は、上述の「宿直」の許可申請をします。しかし元々「宿直」業務専従職員対象業務専門で雇い入れる(本来業務が「宿直」業務である)場合については、「断続労働に従事する者」に対する適用除外許可を申請することになります。(様式第14号(第24号関係)) この許可は、宿日直許可と異なり、定額の宿日直手当の支払ではなく、時間に応じた賃金と深夜労働に係る割増賃金の支払が必要です。また業務密度に応じて最低賃金減額特例許可が受けられることがあります。(様式第5号(第4条関係))
これについては、また次回機会を設けてコラムで解説いたします。
まとめ
当事務所は、医療法人、医療施設、社会福祉法人や福祉事業所における適切な労務管理を重要視しています。宿直許可の取得は、法令遵守と施設運営の安定を確保するための重要な手段です。
なお、「宿直」許可に関する詳細な解説は当ホームページ「Q&A-病院、社会福祉施設での「宿直」とは?その宿直の許可を受けるためには?」をご覧ください。
今回の東京メトロの事例が、実際は宿直許可が必要かどうか、宿直許可による対応で回避できたかどうかは、詳細を確認してみないとわかりませんが、現時点で適切な労務管理を怠っている事業所様にとっては、大きなリスクとなる可能性も否定できません。
当事務所は、クライアントの皆様が安心して事業を運営できるよう、常に最新の法令に基づいたサポートを提供しています。
宿直許可の申請や労務管理に関してお困りのことがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
これからも、医療法人、医療施設、社会福祉法人や福祉事業所の皆様にとって信頼されるパートナーとして、的確なアドバイスを行ってまいります。